瀬戸内と祖父
「爺よ」
「はい、如何なされましたか毛利様」
「書は有るか」
「えぇ、勿論ございますよ。お望みなれば此方へお持ち致しましょう。政、流通、貿易、或いは…ふむ、何と言うが良いか、娯楽に寄った物等もございますが、」
「娯楽は要らぬ。…その他の采配は任せる」
「分かりました。では幾つか見繕って参りましょう、しばしお待ち下され」
「待て。――長曾我部」
「あン?」
「爺に付いて書を持て」
「はァ?何で俺が」
「頭も気も回らぬ莫迦よ貴様は」
「テメェ喧嘩売ってんのかこんなとこで…チッ、しゃあねェな。おら爺さん、何処付いてきゃいいんだ」
「いやはや忝い、長曾我部様」
「ホッホッホ。にしても毛利様は、分かりにくいお方ですのう」
「…ほんとだぜ全く。まァすぐに状況が把握出来なかった俺もわりィけどよォ」
「いえいえ。手伝って頂けてありがたいばかりですわい」
「なァに、いいって事よ」
「長曾我部様も、何か興味を引かれる書でも有りましたら、どうぞ遠慮無く持っていって下され。しばらく放っておかれている物ばかり故、些か黴臭いでしょうが」
「おう。…っつーか、爺さん、その長曾我部様っての止めろや。これからアンタにゃ世話になんだしよ、時代もちげェんだ、もっと気楽に呼べばいい」
「…おやおや。ふむ…では、お言葉に甘えて、元親君、と呼ぶのではいけませんかな?」
「いいぜ。ついでに話し方も変えちまえ」
「ホッホ…ありがとう」
「おい爺さん、これァ何だ?絡繰りだよな?」
「あぁ、それはラジオカセットレコーダーと言うての。まぁ、ラジカセ、と呼ぶのが一般的だね。詳しく説明すると少し長くなるから、それも持っていこうか」
「ほんとか?!ありがとうよ!」
「…遅い」
「申し訳無い。少々寄り道をしてしまいました。それと、そういえばと思って此方もお持ち致しました。新聞、というものです。新たに聞く、と書いて、しんぶんと読みます。毎日出される、国内のみならず世界の日々の出来事や、政、流通といったもの等に触れているものにございます」
「ほう」
「書はある程度時が経ってしまっている事を書いているものが多いですが、これは時事に通じたもの故。毎朝、日が昇る前後の頃に届けられておりますから、お好きな時にお読み下され」
「あぁ」