白澤と金森、紫原
ゆら、とちらついたかと思えばそれは泰然とそこに立つただの巨壁である。名が体を表したのか或いは順序が逆なのか、何にせよ紫の目は確かに侮蔑のような色を湛えていた。一瞬強く眉を顰めた白澤が、気怠げなままの視線を上目遣いに男へと遣る。あ、と、彼の纏う空気が刃のような尖りを持った事へ気付いた金森が、クロ、と名を呼ぶも無視されて。
「もしかしてアンタも、何もしなくても色々やれたってクチ?」
「んー?んー、運動はねー。俺もって事は、そっちもー?」
「まぁね。…だけどアンタみたいに、才能が無いのに努力する人間熱中する人間、そういうのを莫迦なように思った事はねーわ」
やばい、と確かに思った時には既に遅い。誰に対しても容赦無く言葉を投げ、意見を述べる白澤玄光という男。彼はそれを口に出していた。
「つーかむしろそうして莫迦にするアンタの方が、僕からしてみればくそみてぇに莫迦らしいね」
「………は?」
「僕は言うところの天才肌ってやつだから特に努力とかしなくても大概やれるし?だけどな、だからって努力をそう莫迦にした事はねーよ。確かに努力じゃどうにもなんねぇ事在るけどさぁ、努力が実るっていう事実も僕は知ってるし解ってんの。猛流が努力しまくった結果として猛流の今が在るのは事実だ」
「…クロ、いいって、俺は大丈夫だから、」
「違うし、猛流が大丈夫でも僕が大丈夫じゃねぇし。おい紫のデカブツ、僕アンタの事すげぇ憐れに思うわ」
「…ヒネり潰すよお前」
「ほざいてろ。行こう猛流」
「あっおっおう、あ、じゃ、じゃあな紫原!」
ひどく不機嫌を表に出した紫原、と、白澤。自分を悪しく言われて、友人でありチームメイトである彼が憤りを見せてくれた事には嬉しく思いつつも、小さく溜息を零して金森は白髪の男を追い掛ける。後方からのオーラは身に痛いままである。あぁぜってーアレ怒らせた怒りまくりだろアレ、なんて身震い。
似ている、しかし似ていない。と思えば否、やはり似ている。
そんな気がした。