入学式の翌日の朝



「忘れ物は有りませんね?」

「んー多分」

「ま、忘れているから忘れ物と言うのですが」




ソファーからスクールバッグを取り上げるのを眺めながら、この理事長室の主はそう訊ねた。少年――つまり男子生徒の制服を着用しているのだが、その実は少女であり女子生徒である彼女はやる気の無さそうな声で返して。


しかし非常に残念です、とメフィストは重い溜息をつく。切実なそれは今日に至るまでに幾度と無く見て聞いてきたものだ。男が大仰な程に嘆く事と言うと、自分は女子制服を着た姿が見たかった、と。何も道化は常に偽りと芝居で生きている訳でも無い。たまに見せる本音と真実の一端が、これである。あの絶妙でいて神掛かる萌えの塊を何故どうして、きっと叔父上もアレを着た貴女を見たいでしょうに、等と実にしつこいメフィスト(余りの必死の形相は最早気持ちが悪い)に漣は毎度白い目を向けていた訳なのだが。




「耳と尻尾隠せるのがこれなんだから仕方無いじゃんて何度も言ってるじゃん…」

「えぇ何度も聞いていますけど!キイイイイイイイ!」




男が持つには些か異様な、ピンクの大きなハートが散りばめられたハンカチを噛み締める道化。それを無視して行ってくると一声掛ければ、コロリとその芝居染みた事を止め、メフィストは最後の確認だと漣を引き止める。




「貴女の学園での設定は?」

「神谷漣。アイルランドからの帰国子女で理事長の知り合いの娘。勉強も運動もそこそこ得意、肌が弱くて日光とか塩素とか石灰とかちょっとパス。あと匂いが強すぎるものも駄目。体質の事は理事長に許可取ってあるから男子の制服着てる」

「では、塾での設定は」

「騎士と手騎士志望。武器は組み立て式の棍。喚ぶのは下級のケット・シーと中級のクー・シー」

「よろしい!…それでは」

「行ってきマス」

「はい、行ってらっしゃい。また夜に」

「んー」





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