京都遠征序盤



やっほー久しぶりー、なんて随分と軽い調子の言葉と共に少女が現れた際の彼彼女らの反応と言えば、実に様々なものであった。しかし大抵の者は驚愕の後に、負の感情を載せて顔を歪ませる。特に、少年達。殊此処京都を出生の地とした彼らは、苦しいのか、恐ろしいのか、憎悪、敵意か、それらを向けてくるのだった。
喉に詰まって何も言えない、といった様子で、柔らかな色味である金髪の少女は駆け寄った漣の元で、その両手を取り力を籠める。泣きそうな目できつく口を結ぶもので、逆に驚いてしまう。誰も言葉を発する事が無い。そこに痺れを切らしたのか、或いは我に返ったのか、1人が声を上げる。




「――っアンタ!」

「え、うん」

「何なの!今更ひょっこり出てきて…!」

「やっとお許し出たんだよ、遅くなってごめんねー」

「あ、あの傷だものそれはしょうがな、っじゃなくて!」

「あーれ、来ちゃ駄目だった?人員不足だって話だし、要らない事は無いだろうと思ったんだけど」

「――ふざけとるんか自分!!お前、お前…っ悪魔やろ!!」




少年が、怒鳴った。拳を固く握った彼の、苦悶、困惑、焦燥、エトセトラエトセトラ、滲み出ては明け透けに見えてしまっている心内。自分の手を握っていた杜山しえみが、何故か彼女自身が傷付いたかのような顔で勝呂竜士に振り返る。そうだ、この少女はとても優しい人間だったのだ。しかしこれ程にか、と、呆れや嗤いを越して何処か眩しく思えて漣は目を細めた。人間の美しさであり、同時に愚かな部分でもあるそれを、良くも悪くも自分は持ち合わせていない。




「ぼ、坊…落ち着いて下さいよぉ、」

「っそ、ですえ、寝てる方らも居てはりますから…!」

「――悪魔の私が居ちゃ駄目って、何で?」

「な、んでやと…?!んなもん俺らに害為すやもしれへんからに決まっとる!」

「害為すって、何で?ひっどいなぁ、私キミ達の事身を挺して助けたってのに」

「そうだよ…!もう忘れちゃったの?!あんなに火傷して、それなのに、」

「自業自得や!それにあんなん芝居打ったら容易に出来よる!杜山、忘れたかて、ほんなら訊くけど自分も忘れたんか?!――いきなり出てきてコイツ助けた奴居ったやろ!アイツが真っ黒い焔使うたん、忘れたんか…?!」




黒い、黒い焔。それは彼らに途方の無い恐れ、そして畏れを齎した。全てを飲み込む闇を彷彿とさせたあれを何も無しに発現させるなど、到底人間に出来たものか。何より、少年達にとって仇であるサタン、正確には落胤の放ったではあるがその青い焔を事も有ろうか――焼き尽くしたのだ。否、厳密に言い表すなら、まさにそう、飲み込んでいた、侵食していた。衝撃的な光景であり、恐怖以外の何でも無ければ只事であるはずも無い。推測が、1つ。馬鹿げているなどと一蹴の出来ないそれは、彼らの誰と限らず、頭の中に浮かんだのだ。




「アイツは、誰や…ちゃう、アレは、一体"何"や…!」




冷や汗、だろうか。それをたらりと垂らした少年、今や元としか言えないのだろう候補生仲間、勝呂竜士。その傍に恐る恐るといった様子で此方を見ている志摩廉造、三輪子猫丸、また、こればかりは庇い切れずに同じ疑問を持っているのだろう神木出雲や杜山しえみの目と表情――ふ、と少女は笑った。問うてきてはいるが、恐らくは結論に辿り着いている。




「はて、さて、勘付いての通りだよ。アレは我らが父なる青焔魔、その弟、或いは黎明の子、或いは明けの明星、或いは堕天使長――ルシフェルとも呼ばれよう彼の名は、黒焔魔。…ま、私にとってはただの飼い主であり彼氏様旦那様ってとこだけどね」





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