燐の露呈の少し後



「――…お前なぁ」

「…ごめん」

「それはさっきも聞きました。…俺は謝罪の言葉が欲しい訳じゃねぇの」

「う…ん、」

「お前があいつらを気に入ってるのは知ってるし、気に入ってるからあんな事したのも、まぁ過ぎちまったもんだし…元から止めるつもりもねぇがよ」




身体の至る所に負った火傷を、治し隠すための包帯の白が目に痛い。悪魔である彼女のそれらは本来回復も速いものであるのだが、今回ばかりは事情有りきだ。青い焔、これの凄まじき事。流石は虚無界を統べたる魔神の火、あれはどれ程高位上級の悪魔に対してであろうと――たとえ落胤に受け継がれたお零れのようなものだとしても、遺憾無く効力を発揮し、爛れた傷を与える。




(…尤も、叔父上に関しては然程の訳は無いのだろうが)




白い包帯と薄い肌色、黒いキャミソールとショートパンツという何とも誘惑される恰好をした年端もいかぬ少女を組んだ脚、膝の上に対面座位と、それだけを見れば危うい光景にくらりとしそうだ。相手の男は再び溜息を吐いていた。1つ2つ3つ、もっとだろうか、とかく色濃いのは呆れである。彼と彼女の落ち着くソファー、その他、そもそもこの空間、部屋自体の主であるメフィストは何かとするなら特に憂えていた。




「漣。私も、貴女が傷付くのは本意ではありません。身体のみに留まらずそれは心の事へも言えますが」

「…うっす」

「本音を言うのであればまず私のシナリオに可愛い可愛い貴女の干渉を許す事自体不本意なのですがね!勿論その身を案じての意味で!嗚呼本当に嘆かわしい!」

「メッフィーキモい」

「言ってやるなって。あれでもマジなんだから」

「うっす」




おいおいと乙女の咽び泣くがよろしく揃えた両手で顔を覆った悪魔に対し、ざっくりすっぱりと言い放った少女へギルは苦笑を向ける。余りの痛烈さに更に沈んだメフィストを措いて、男は己の愛しく想う娘の頬へ手を伸ばした。ガーゼの貼られていない、滑らかな肌が惜し気も無く露わなそこ。ひどく慈しんだ手付き、堪能するように親指で目の下を優しく撫でる。




「…ま、俺が何をどれだけ言ったってお前は聞かねぇんだろうし?」

「…うん」

「そういうとこ、別に嫌いじゃねぇよ。だからこそお前から目が離せなくてド嵌まりしてる訳だしな」

「ほんとギルって人目気にせずそういう事言っちゃうよね」

「全くですよ、独り身で寂しい私の事も考えてほしいものです」

「あれ復活してたの」

「誰も慰めて下さらないので」

「メッフィー…ドンマイ」

「せっかく復活したのにまた沈ませる気ですか貴女!酷いお人だ!」

「…取り敢えず、ちょっとお仕置きはさせてもらうからなお嬢ちゃん」

「エッ」

「俺にとってはどうでもいい人間なんかに構って挙げ句そんな怪我してくれやがった罰だ」

「エッ」

「お前の身体はお前だけのもんじゃねぇの。…っつー訳で、じゃあなメフィスト、また後で」

「程々にして差し上げて下さいよ、叔父上」

「残念、丁度色々溜まってるもんでな」

「めっめっふぃヘルプ!」

「嗚呼、お労しやリリス…」

「死ね」





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