メフィストとルシファー



煌びやかでいて落ち着きも匂い漂う1室。ソファーにゆったりと座り紅茶の入ったカップを傾けていた男が、その紅い液体を飲み下して言う。




「ちょっかい掛けるくらいはまぁ許してやるよ。俺もそこまで心が狭い訳ではねぇからな。…但しサマエル、時の王よ。お前の主催するゲームに駒として投じるつもりなら、大いに手ぇ出して口挟ませてもらうぜ?我が甥っ子君」




薄い笑みを載せた口元は妖しく、組んだ脚は長く、さらりふわりと短い髪は黒に程近い暗灰色、整った面の彼に部屋の主は剽軽に笑った。――嗚呼、言われずともの事だ。そして男であっても、それを理解してはいれど、尚口にしたというのだから余程念を押したいのか。――嗚呼、頷ける事だ。何故なら彼はとても、己の飼い猫を愛しんでいる。




「…えぇ!勿論解っていますとも、敬愛なる我が叔父上。私だって、あの愛らしい娘には心身共に傷付いてほしくありませんしねぇ」

「アマイモンにもよく言っといてほしいね。お前みたいな頭は持っちゃいねぇが、その分加減も出来ないガキだからな。…ま、懐いてるみてぇだしそんな心配は要らんのかもしれんがよ」

「貴方からも言っておくといいでしょう。何せアレは愚弟ですから」

「ははは」




サマエルもまた、彼女をいたく好んでいた。気紛れで勝手奔放、我が儘を言う事も少なくは無いが、小さなものばかりで可愛らしい。欲に正直己に正直なあの娘は確かに惹き付けて止まない魅力を有している。そしてそれを自身でも理解しており、打算で利用する時もこれまた少なくは無いのだから実に小悪魔的だ。そこも、気に入っている要素の1つ。そんな愛らしい彼女をどうして悲しませようか。
額を指で押さえ大仰に末弟の愚かさを嘆けば男は笑う。サマエルの父であるサタンのその弟――ルシファー、またの名をギリオンと言う、よもや彼がアマイモンなどに押し負ける事は有り得やしないが、娘となると話は別である。彼女はただ一介の悪魔に過ぎない。何かとリリスと呼ばれはしても、力は、弱いのだ。あれならサタンの落胤の方が上である程には。




「紅茶、旨かった。また飲ませてもらいに来るよ」

「ありがとうございます。その時は是非、リリスも共に」

「あぁ」




席を立ち、扉の方へと歩いていく。ガチャン、と鍵の働く音。ドアを開け様に振り返った男はサマエルへ楽しげに微笑って。


『――Bis bald!』


部屋に1人となった彼の笑みは、悪魔のそれとは大分毛色が違っていた。





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