男主について



その男子は体が細い。それでいて猫背であり、両目の下には濃い隈も有る。特別白い肌という事は無かったが、どちらかと言えば色は薄い方だ。少しばかり端が吊り上がり気味の目は三白眼。身長は高くも無く低くも無くといったくらいで。しかし、胸板が薄く腕や脚等至るところ細くとも、それでもしっかりと筋肉は付いており、成年男性へと移る中間期とは言え、きちんと高校生男子の身体であった。


彼――佐田壱八は、気質が穏やか、というよりは緩やかだ。その友人らを以てして、怒らない奴、と言わしめる程度には。激昂はおろか、小さな怒りの端でさえほとんど現した事が無かったのである。罵倒もまずしない。怒るのでは無く、諭す・窘める・宥めるタイプの人間であったのだ。
その事に加え、態度や思考も柔軟で、己が主権を握るよりもその場の流れに身を委ねるような性格であったためか、男女共に(勿論男子の方が数は倍程上であるが)友人が多かった。積極的に物事に関わる人間では無かったが、周囲が壱八を引き込んでいくのである。そして彼はそれを拒まずに、ゆったりとそこへ腰を落ち着ける。するとどうしてか場の空気が穏やかさ緩やかさを内包し始め、壱八を引き込んだ友人らにとって非常に居心地の好いものへと変わっていく訳で。


積極的に物事に関わるタイプの人間では無い。むしろ、割合面倒事を避ける傾向にある。しかし壱八はまた、見過ごす、という事も余り出来ない性格をしていた。己の与り知らぬところでの物事はほとんど気に掛けないが、目の前でそれが起きた・起きているとすれば話は別だ。彼はよく喧嘩の仲裁や、険悪な雰囲気の場の緩和等を買って出ていた。壱八自身はそれを偽善かもしれないと笑う。しかし周囲にとってはとてもありがたいもので。友人らは彼を、歯車に注すオイル、或いは緩衝材の存在として、密かに大事にしているのだった。


壱八にも、特に仲の良い、つまりよくつるむ相手というものは居る。そしてそれというのが、バサ高の男子生徒の中でもかなり上位に位置している面々で。一体何のランクか。――顔面偏差値、要はイケメン度というやつの、である。バサ高のちょっと有名な特異点の1つに挙げられる美男美女の片やという訳だ。その内の計7名。精悍な中に可愛らしさの窺える者、中性的な者、社交性も高そうでストレートにモテるだろう者、少々やんちゃしていそうな者と幾つかにタイプが分けられるが、彼らは1つの集団として成っていた。
彼自身はそこまで突出したイケメンという訳でも無い。が、パーツのバランスは良く、整った顔立ちである。確かに真顔だと、三白眼や隈等の要素によって少々近寄り難く思える事も有ろう。初対面であれば尚更だ。しかし、壱八はよく笑う。眉を顰めながらニッと歯を見せて、いつでも楽しげに。ヒッヒッヒ、という笑い方こそ余り快くは響かなけれど、それがひどく、彼に合っていて憎めないのである。そして例の気質や性格の事も有る。単純な度合いで言えば先に挙げた7名や他数名の中では劣るのやもしれないが、総合的な部分においては壱八もまた、イケメンの枠の内に数えられよう。むしろ彼へ好意を向ける生徒の全体数では、誰よりも多いのが実際である。


好き、にも種類が有る訳で。男子だけでも、単に同性の友人に対する人間性の面への好意も在れば、同性愛者からのそれ以外にきちんと恋愛感情でのものだって存在する。また女子でも、男友達へ向けるなり異性として見るなり、1つでは無い。壱八はそのどれであっても、ありがたく受け取り受け入れ、礼の言葉を述べるだろう。――しかしこれまでに数度、彼氏彼女(同性愛者の存在を考慮すれば恋人同士とするのが妥当だが)の関係を持って付き合ってほしいと言われた時、いつも彼は頷く事が無かった。何故なら答えは簡単、既に相手が居たからだ。
2年近くつるんできてその事実を認知せずに居た例の面々は、ある日思いがけずそれを知り、とことん驚愕した。特にその内5名の中には落雷にも似た衝撃が走り、持っていたポッキーを取り落とす者、咥えて食べていたポッキーを勢い良く折る者も居た程に。言っていなかったかと恍けたような壱八に、1人は聞いていないと声を張り上げたり、2人はどんな相手だ詳しく頼むと詰め寄ったり。ポッキーを取り落とした男子――猿飛佐助(社交性も高そうでストレートにモテるだろうタイプ)が静かなままの男子――毛利元就(中性的なタイプ)へ何故驚いていないのかと訊ねれば、学年トップの成績を誇り、巷では策士や軍師とも称されている彼が至極冷静に、何処か小馬鹿にしたような声音で以て言った事とくれば。




『それを知ってはいなかったが、そうまで驚く事でも有るまい。――彼奴ぞ?あの佐田壱八ぞ?むしろこれまで独り身であったとした方が驚きよ。それとも何か、性欲やら相手取る欲やらの薄げな佐田の事であるからまさか居るまいとでも思っていたか。フン、浅はかなものよ』




なんて。この男にしては珍しく賛辞を述べたものだと頭の隅で考え、否、壱八に対しては比較的態度や物言いも軟化していたか、それに平素より賞賛の評価を与えていたかと思い直した訳だが。そんな猿飛は毛利から、己の幼馴染みの1人である風魔小太郎(精悍な中に可愛らしさの窺えるタイプの1人)へと顔を向け、同じように質問したのであった。ちなみに彼は元々知っていたと答えたため、それにはそれでまた絶句した後、何で俺様には教えてくんなかったのよ…、などと怨みの籠った声で壱八にじっとりとした視線を送ったのだが。




『…えェと、ごめん?』

『こっちは理由訊いてんの!!謝罪が欲しい訳じゃねぇの!!』

『理由なぁ。訊かれなかったし、取り立てて言う事でもねぇし…』

『………、………』

『小太郎って何かそういうタイミングいっつもいいよねムカつく…ムカつく!いっちゃん関連だから余計に!何だよ俺様仲間外れか!』

『…』

『別にそういうつもりはねぇんだがなぁ』

『…、…』




2人は顔を見合わせる。
一頻り怒ると、自分は親友では無かったのかとおいおいしくしく泣き真似を始めた猿飛へ、俺ら親友だったっけ、なんて小首を傾げた壱八を、彼も彼で中々天然…基い素で辛辣なんだよなぁ、と眺めた風魔なのであった。





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