春
私立婆娑羅学園高校、通称バサ高。字面こそ仰々しいが何という事は無い、全国でも並程度の偏差値と中々の規模を有する至って普通の私立高校である。学園長及び理事長は、莫大な資産を所有していると専らの噂の松永久秀という男だ。そして高等部校長が、織田信長。さてこれらは余談であるが、両者は別段仲が良くも悪くも無く、最早職務でのみの関係と言っても過言では無い。
バサ高は、至って普通の私立高校だ。いわゆる美男美女が勢揃いしているだとか、と思いきやブサメンとは違うが異様に強面な生徒・教師が居たり、用務員にまるでガンダムらしい者が居たり、そういう、少しばかり、そう少しばかり妙なような部分も有るには有る。しかしそれでも、至って普通の私立高校だと言えよう。
とある男性教師Ｋが極殺モードなるものに突入すると周囲をパチパチと雷電が走り始めるだとか、とある女子生徒Ｉが身の丈程の大木槌をたまに振り回すだとか、とある男性教師Ａの性癖や奇行だとかとある男性教師Ｔととある男子生徒Ｓの愛の殴り合いだとかそれらでさえ何らおかしなものでは無い。そう、この学校においては。
男女共にブレザーであるバサ高は、ある程度校則が緩く、自分なりの着こなしをする者も少なくない。むしろそちらの方が多かったりするのだが、だからと言って街中で浮くような奇抜さばかりが目立つ訳では無かった。一般的なお洒落コーディネートというものである。寒ければブレザーの下にパーカーを着ていたり、夏はシャツの下に派手な柄Ｔシャツを着ていたり。また、靴も自由だ。ローファーの者、スニーカーの者、女子などはショートブーツを履く者も居る。そういった意味でも、普通の私立高校である。
頭髪についても同様、ヘアカラーも髪型も様々だ。アクセサリーの類いも禁止されていないし、携帯の持ち込み等も私立であるが故か厳しくされていない。実に緩いため、近隣の中学生には中々に進学先として候補の上がる学校だったりする。
部活動の事としては、運動部が文化部よりもやや盛んであるか。野球部・サッカー部・バスケ部・陸上部・テニス部・バレー部・剣道部・弓道部・柔道部・体操部といったよく聞くものから、棒術部・馬術部・競歩部・登山部・スキー部なんていうちょっとニッチなものも存在する。運動部ではサッカー部と剣道部がこれまでに特に成績を残しており花形にもなっているのだが、他の部も負けてはいないし、もっと言えばやや盛んさで劣るというだけで、文化部も優秀だ。合唱部・吹奏楽部・美術部・書道部・茶道部・華道部・園芸部・調理部エトセトラエトセトラ。合唱部と吹奏楽部は毎年コンクールへ出て入賞を収めている。
尚、同好会以下の活動においてはここには記さず。勿論兼部や帰宅部も認められている。
偏差値こそ並程度だが、上と下が居るから均されるのである。学年に数人ずつ学力面で優秀な者も居る。また、定期考査で力を抜く輩も一定数存在する訳だから、一概に並とも言えまい。中には入学してから現在まで、わざと無難なテスト結果を残しているというような者も居るのだ。
そんなバサ高、もう何十度目かの春である。新設校では無いが、設立して30年にはなろうか。また、此処を去り、此処へ至る者達が生まれる季節となるのだった。