白澤と高尾、に透坂



放課後に寄った駅前の、大きくは無い書店内。今日が発売日である漫画の新刊を買うと言う白澤に付いてやって来た透坂、2人は別々にコーナーを回っていた。
その作品はかなりに人気も有り、また時刻も7時半を過ぎている。在庫がどうかは分からないにせよ、店頭に並べてある数は最早残り1冊であった。ラッキー、なんて、それでも表情には何の変化も無いまま白澤は中々の長身を屈めてそこへ手を伸ば――したのだが。




「…ん、」

「あー、」

「何、アンタもこれ目当て?」

「ご名答。これ面白いっすよねー」




学ランの、シロくらいの背丈の男子。このタイプの制服は近い所なら隣の地区に高校が在った事を考えながら、折っていた腰を戻し、見下ろす。切れ長の目元から此方の動向を追った、オレンジの瞳、それはちらりと何故か灰色にも見えて。トオル、と、白澤の脳裏を掠める姿。
にぱ、と彼は人当たりのひどく良い笑みを浮かべた。




「取り敢えずそれ、どーぞ!俺は店員に在庫在るか訊きますんで」

「いいの?」

「どーぞどーぞ」

「じゃあ貰うわ。ありがと」

「いえいえー」




軽い口調は本当に気にしていないように見せてくる。そういう辺りもやはり透坂に似ていて、少しだけ眺めてしまう。漫画を取らずに自分を見下ろしたまま、まるで観てくるような。そんな相手に困った顔を僅かに表して男子はポリポリと頬を掻いた。




「…えーと?」

「…あぁごめん。友達に似てると思ってちょっとね。優しさと笑顔にキュンとしたとかそういう気持ち悪い事はねぇから別に」

「あ、ハイ」

「――クロー漫画ゲット出来た?」




気怠げな無表情を崩さずに言い下す、白髪の、己の相棒(これを彼は否定するが)よりかは幾らか身長が低い男。雰囲気としては恐らく年上だろう。はっきりと気持ち悪いと述べた相手にそういう部類なのやもしれないと考えつつ、高尾和成は咄嗟に返した。――そこに、掛かる声。
同じ制服だなとは思っていたが、まさか知り合いであったとは。色素の薄い綺麗な髪をさらりと揺らして男は『クロ』の手元を覗き込む。




「お前こそ」

「ばっちりこの通り。…やぁどうも、こいつが何かお世話になったみたいで。見えちゃったんだよねーありがとうね秀徳生君、キミ何年生?」

「1年っす。そちら先輩さんですよね」

「うん、一応3年。もし良ければお礼に何か奢らせてほしいんだけど…」

「えっいやいやいいっすよー!大した事じゃないんでほんと!」

「いやいやいや。あーじゃあほら、お近付きの印とか?」

「は?何なのお前めちゃくちゃうざいんだけど。馴れ馴れしすぎだろ。つーか僕早くこれ買って家帰って読みてぇから退け、腕重いんだよ」

「Oh, sorry. 行ってらっしゃい。キミもごめんな?引き止めちゃって」

「いえ大丈夫っすよー。どうせ連れの用が済まない内はどっちみち此処出られないし」

「そっか、じゃあ良かった。それじゃあね秀徳生君、また会えたらその時こそ奢らせてな」

「ハハッそんな奢りたいんですか」

「先輩風吹かせたいのよ」

「成る程。んじゃ次会った時にはお言葉に甘えて!ビュービュー吹かせちゃって下さい先輩風」

「あはは」




楽しげに笑った男が、グッバイ、と流暢に、自然な体でそれと言って。1つふるりと手を揺らす、高尾は軽く頭を下げる。そうしてそのファーストコンタクトは、特別何事も無くそこで終わりを迎えたのだった。




書店を後にして駅へと入り、改札を通ってプラットホームにて。アナウンスや電車の駆動音が響く中徐に白澤が口を開く。




「さっきの奴だけど」

「秀徳の高尾和成君」

「あっそ。そいつ、お前と似てたよ」

「あ、ちなみになー彼秀徳のスタメンで俺と同じポイントガード。あと秀徳には緑間慎太郎君がお前と同じシューティングガードやってるぞ」

「いやどうでもいいしそれ。つーか話聞けよ」

「あはは。で、俺と高尾君が似てるって?そうだなぁ、高尾君とは"鷹の目"持ってるってところも共通点だね」

「人当たりは良さそうなのもね」

「何で"は"を強調したの」

「少なくともお前はそうだろ。あとあいつの目、オレンジだったけど何か灰色に見えた時有ったんだよね」

「ふぅん?」

「まぁそれだけだけど」





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