始点



「あと、俺達の任に関してなんだが」

「手緩い監視だろう」

「身も蓋もねぇ事を。…9代目からは好きなようにしていいと言われててな」




あの翁は見越しているだろう。というよりも、それを前提としての決定。この不器用な男は一切を遮断してしまったのだろうが、9代目の表立たない愛情――嗚呼、不器用なのはどちらも同じか。血こそ繋がっていなけれど父親と息子に紛いは無いなと心中で笑いながらも、ギルは自分が決めた方針をXANXUSへと伝える。数日前に監視の任を与えられてから、さてどうしようかと考えてきた事。




「監視役として此処には来たし、確かにその任を与えられてる。が、別に、要らんだろう?」

「それを俺に訊くか?」

「確認だよ確認。…もうお前、どうせ、自分の中じゃ終わってんだろ。ボスが動かねぇ限り下の連中も勝手には動かねぇ、と俺は思ってるし、つーか逐一報告ってのもそれはそれでめんどくせぇんだよな」

「…ハッ!随分と怠惰な野郎だ」

「人に言えた事かよ王様。…で、ヴァリアー幹部は本来6人居たところ、今んとこ雲の席が空いてる事も知ってる。だから、」

「てめぇが其処に座るってか」

「いーや?俺は雲の属性は生憎持ってなくてな」




含んだ笑いを愉しそうに浮かべた旧知の男に対し、ピクリと眉を上げXANXUSは黙って先を促した。…本当に変わってやがらねぇ、と、そう思う。こいつは昔からこうだ。彼にしては珍しく、悪くない過去として幾つかの記憶がちらついていた。――尤も、ギルが続けた言葉に注意はそちらへ全て向けられる事となるのだが。
曰く、漣は雷と嵐の属性以外にもう1種類、雲も有しているのだと言う。そしてそれは本質であるのだと。


しかし少女は特に孤高にして在った訳では無かった。誰をも寄せ付けず、群れるを良しとせず、とは違う。彼女は人肌や温もりの感じられる相手の傍に居る事を好んでいるし、賑やかな場所に溶け込んで周囲の喧騒を眺め聴くのも好きだった。そしてまた、それらの逆も。触れられるのを嫌がったり、閑静の中1人過ごすのを選ぶ時も多々有った――要は気紛れなのである。本部においてそんな漣を厭う者がどうしてか少なかったのは、何故なら彼女はその点を愛らしいものと認識されていたからだった。少女と対した人間はすぐにそれと判断する。仔猫だ、と。ギルは勿論の事、9代目も、幹部、メイド、門外顧問、ひいてはキャバッローネやその他ボンゴレと懇意にしているファミリー等々も、ほとんどの者が愛でる小動物だとしていたのである。
これらは説明をするよりも、接していけば近い内に解るものだ。漣と何年も共に居た彼は、ただ端的に、こいつは仔猫なんだよ、とだけ語った。それを言うならこの男は獅子だが、とは内心に留めて。




「…ま、素質は十分だってこった」

「………」

「いいだろ?それで」

「………却下、と言ってもどうせてめぇは引かねぇんだろうが」

「はは」




ハァ、と溜息を零し、XANXUSは些か投げ遣りに好きにすればいいと提案を飲む。但してめぇで奴らに説明するんだな、とも言いながら。それに笑うギルの横で、話題の中心であった少女は始めからずっと、己の正面に居たその存在をじっと見つめていた。自分が現時点において最も好んでいる男の、濃いアッシュグレーよりも更に、最早ただ漆黒。暗い金では無く、深い紅の瞳はギルの涼しげなそれとは違って、鋭さはとても似ているが、染まらせた色は愉悦どころか何処かもっと――何だろうか。




「………貴方の"中"は、なぁに?」




少女が沈黙の隙間を縫ったように呟いた。問われた男は訝しげに、しかし僅かに目を見開いて。その言葉が意味する事を知る者は、楽しくなるな、と小さく笑う。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -