対面



道中一切会話が生まれる事無く、他より少しだけ豪奢な1つの扉の前まで来ると、此処だ、とだけ言い残して彼はさっさと戻っていってしまう。ひっそり苦笑を洩らした。此方に興味が無いとまでは言わなかろうが、監視員などと馴れ合う気はまず無いのだろう。まぁそれはそれで構わないもののと、ノックをしてから両開きの内の片方の取っ手に手を掛けた。


直接には実に久しい。会わないようになって何年だろうか。無言のまま、彼がどかりと座って微動だにしていないそこへと歩み寄る。近付く度に増していく威圧感は相も変わらないらしい。小さく小さく失笑すれば、逃さず拾っていたようでギンと睨まれた。それすらあの頃と違わないものだから、懐かしさに目が細まる。この様子だと、此方の事はちゃんと憶えているようだ。剣呑としたピジョンブラッドを改めて見つめ返し、口を開く。




「よう、久しぶり」

「………」

「変わってねぇなぁ、その感じは」

「………てめぇもな」

「ははは。…ま、そういう訳だから、しばらく厄介になるぞ王様。…ん、この呼び方も大分懐かしいな」

「…。…部屋は余ってる。好きに選べ」

「ありがとう」




1拍の沈黙が落ちた。これは話していいものか、或いは、それをこの男が知りたいものか。自分が来た時点で既に察しているのやもしれないが。徐に首を微かに傾げ、ギルはまた口を開く。なぁザンザス、と呼び掛けて、もう解っているかもしれないがと措いてからそれを言った。いずれにしても、この事を確かなものとして耳にしてしまうのを彼は良しとしないだろう。解っていながらも聞かせるというのは嫌な人間だ。きっとXANXUSは怒りを露にするのだろう、懺悔とでもしたつもりかと。
さぁどうなるか、などと考えたところで、拍子抜けである。予想に反して、男は煩わしそうに1つ瞑目してから、クソが、と呟きを吐き捨てたのみだった。おやと思う。どうやら暴君交じり入る王者の彼も、様々な出来事を経て丸みを多少は帯びた――否、というよりも、何処か諦めているそんなように、学生時代数年だけの付き合いでもXANXUSという人間の中身の大体を理解したギルには、観えた。




「…ま、俺は干渉はしねぇがよ」

「うるせぇ」

「おいおい、何も言ってねぇってーの。…ただ、漣は、」




ギィ、と蝶番の軋んだ音。誰であるかは判りきっている。部屋の主はそちらに視線を遣った。男達に比べて格段にサイズの小さい少女は、広い執務室においてやはり取るに足らない。しかしこの、若いとするよりもむしろ幼い娘は、特にXANXUSにとって大きな存在となるだろう。ただギル1人が予感していた訳では無かった。超直感を持つ彼の翁が、彼に告げたのだ。きっと漣が変えてくれるだろう、と。ギルは否定をしなかった。自分もそうと思ったから。
微かに胡乱げな真紅は再び彼に向いて、言外にされている確認へそうだと笑みを返せば、胡散臭そうなものは気怠く変わる。傍らに立ち止まった柔らかな銀髪の天辺にぽん、と手を置き、少女の入室に止めた言葉の続きを口にするのである。




「――こいつは興味を持ったら結構しつこいから、覚悟しとけよザンザス。…さぁ漣、ご挨拶を」

「あい。当方、漣と申します。ギルと一緒に監視役をする事になりました、どうぞよろしくお願いしますです」




漣は敬礼をしなかった。それを咎める必要は、何処にも無い。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -