奇妙



「…取り敢えず、ザンザスんとこだな」

「あら、こっちからの自己紹介は要らないのかしらん?」

「お前らの大体のパーソナルデータは知ってるよ。…俺は、だが。こいつにはやってくれるかルッスーリア」

「えぇ」

「漣、終わったら追ってこい」

「はぁい」




誰かザンザスのところまで案内してくれるか、と軽く見回すと、ツンツンと髪を逆立てた口ピアスの男が自分がと名乗りを上げた。それへ頷き、ギルは先導を始めた彼の後を追って歩き出す。結局次々と数が減っていき、最後に談話室に残ったのはヴァリアー幹部総勢5人の内の3人程である。飲まず終まいになってしまっていた紅茶を口へ運んで一息ついてから、きょろきょろと室内を眺め回している少女に、"ルッスーリア"はねぇ貴女と声を掛けた。




「レン、と言ったかしら。私はルッスーリアよ」

「るっすーりあ。あい、よろしくです」

「んふん、よろしくねん。それからこっちの2人が」

「ベルフェゴール。ししし、言っとくけど俺王子だから。お前そこんとこ解っとけよ」

「べるふぇごーる。王子?」

「そ、王子」




そはまるでチェシャ・キャットが如く。と、口の端を上へ吊り上げ並びの綺麗な歯を剥き出して笑った少年に、小首を傾げて漣が言葉尻に付けた疑問符。確かに頭にはティアラが載っているし、さらさらの金髪も色合いが美しい。解らなくは無いが、ならば何故王子がこの暗殺部隊で幹部をやっているのだろうか。ヴァリアーという組織は、裏の更に奥まった処にて存在している。輝かしき彼は異質なのである、はずだが。
…まぁいいか、とそこで思考を止めた。もう、どうでもいい。疑問が生まれたとしても、興味の大きさによってはそうして放棄するのがこの少女であった。適当に頷いて返す。




「はぁ、分かりました」

「僕はマーモンだ」

「まーもん。あい、よろしくです」

「あと、やたら煩かった銀髪の男がスペルビ・スクアーロよん。…どうも彼とは知り合いだったみたいだけど、貴女何か聞いてる?」

「すぺるび・すくあーろ。んむ、いいえ、何も聞いてませんです」




そう、とだけ言い、それで最後の1人だけど、と続けるルッスーリア。案内を買って出た男はレヴィ・ア・タン、何でもボスが大好きだそうな。だからかと先程を思い出して、やはり頷く。ベルフェゴールとレヴィ・ア・タンの事は他の3人の幹部よりも、僅かではあるが、多く情報を得るに至った訳だ。とは言え漣にとって、そうとなった結果に嬉しいも喜ばしいも、どういった感情も生まれはしていないのだが。




「では、そろそろ行きますです」

「それじゃあ私が連れてってあげるわん、付いてらっしゃいな」

「んむ、いいえ、大丈夫、お気遣いありがとうです」

「あら、ボスの部屋の位置知ってるの?」

「知らなかったけど分かりました」

「…?」




立ち上がりかけたところでその言葉である。ギルは案内を頼んでいたのにこの少女はそれを要らないと言う、不思議に思い首を捻れば漣はますます妙な事を口にする。眉を顰めたルッスーリアは、ベルフェゴールの好奇やマーモンの怪訝が向けられる中、全く気にした風も無く足取り軽やかに談話室を出ていく彼女の気配が幾らか遠まると、再びソファーへと腰を下ろしてその疑問を投げた。




「…知らなかったけど分かった、って言ってたの、私の聞き間違いじゃないわよね?」

「確かに僕もそうと聞いたけど」

「よねぇ…」

「何かそういう能力でも持ってるって事じゃねーの?ししっ、王子余計に興味湧いたし」

「でなきゃあんな小娘がヴァリアーの監視役を任される訳も無いだろうしね」

「お前も赤ん坊だろ、小娘っつってどう見たってあいつのが年上じゃん」

「ム、」




何か言い返す前に、赤ん坊のもっちりとした頬を摘んで王子は楽しげに笑う。互いにまずは様子見、探りを入れる段階でしか無いかと、筋骨隆々なオネエ口調の男(私、と言ってはいたがまず間違い無く"彼"だろう)は小さく嘆息して紅茶を飲み干した。





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