食堂



食堂には、ルッスーリアとマーモンの目下のターゲットであるギル・ウォルター以外にも人が居た。彼にくっ付いていた少女は妥当だろうが、何より驚いたのはスクアーロとベルも既に集まっていたという事だ。成人組は横3席を使ってチェスを行っているし、子供組はその隣で何かゲームをしている。千里眼もーらいっお前ペイントボール投げろよな、とは王子である少年の言葉。返事こそ聞こえなかったが少女の頭が微かに上下するのを見て取れた。
こうしてこんな場所にこの揃い具合というのは、明らかに自然的なものでは無いだろう。普通は首を傾げるところであっても、何がその状況を作り出したのかというのは見当がつくどころか断言も出来よう、とある2人の人間による人為の状態だ。はたして大した影響力が有るというのか、それの答えは此処において確かに存在していた。こうさせるだけのものが、と、ルッスーリアの中に葉を広げる驚き。既に蒔かれた種より出ていた芽へ、与えられた水がその成長を促して育っていく。




「どっちが優勢だい?…ム、いや、やっぱり言わなくていいよ。これじゃ一目瞭然だ」

「マーモン黙っとけぇ!集中してんだぁこっちは!」

「ししっセンパイうっせー」

「やり始めたはいいんだがよ、こいつ弱くて弱くて。俺の5戦5勝で正直つまんねぇの何の」

「うるせぇえ!…クソッこれでどうだぁ?!」

「ん、チェックメイト」

「だぁああッ!!」

「まぁ、スクアーロだしね。なら僕とやらないかい?」

「そりゃあいい。掛け金は幾らから?…おいスクアーロ、ギャーギャーうるせぇよ」




2人で近寄って言葉を掛けたのはマーモンである。煩いと声を上げた本人の方が騒々しいのはよく有る事だ。相手の一手を待つ間、顔を向けてやれやれといったように首を振り溜息を吐いたギルにさえ苛立ちと苦心の混じったそれが飛んだ。唸ったスクアーロの、彼なりの熟考ではあったのだろう。しかし挽回の一打には到底届かず、あっさりとものの数秒で決定打となる王手を返されて呆気無く終わる。非常に悔しげな叫びが上がった。
次は赤ん坊との1局。ちったぁ手加減しやがれ、マーモンに負けちまえ、等と一層喧しくした旧友にギルがそれを言い下した後ろでは、ベルと漣の共同戦線が本格的に始まろうとしている。ゲーム内で、陸の女王と呼ばれる竜と対峙する2名と2匹。ハンターは片や双剣を構えた男、片や弓を引く女である。




「ってかお前のオトモマジ仕事しねーの」

「それは私も思う」

「つっかえねー、こんなの部下に居たら王子殺してるし。…ししっ、やっちまえー」

「…メインターゲット狙わないで遊んでるのって、どうなの」




――そんな光景を眺めながら、壁際に控えていた1人のメイドの思う事。驚きが3割、戸惑いも3割、そして、これはまず以て、ヴァリアー邸にて給仕の職に就いている中ではきっと今生感じずにいただろうものだ。ひいてはよもや暗殺者たる彼らに、生まれ、向くだなんて。微笑ましさと安堵、それが2割ずつ、彼女の胸の内に湧き出していた。自分だけだろうか、否、きっと他の者達にも、似たようなものが、そう考えては静かにひっそりと零された笑みに、本人以外で気付く人間は誰も居ない。





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