不合



ベルの居場所を漣に教えてもらい、やって来た彼の私室。コンコンコン、と3回のノックノイズを響かせ、名前を呼んで入るぞと言う。そうして扉を開けた先は、ギルにとっては余り見慣れない様相であった。とにかく雑然としているのだ。大型テレビの周辺にはゲームソフトや据え置き型のハードが、ソファーとローテーブルの周辺には菓子袋が、床の其処彼処にはボーダーのロングTシャツやブーツ(どれも同様のデザインである)が。散らばりっ放し脱ぎっ放しで大分、汚い。
扉を開け爪先程度までを部屋へ入れた状態のまま、思わず眉を顰めて目も細めた。そんなギルに何の用だと奥のベッドから声が掛かる。言うか、言うまいか――否。余計な事には触れない方がいいだろうと判断して、此処へ来る動機であり目的であるそれを口に出した。




「今までお前らはバラバラに飯食ってたんだってな」

「そうだけどそれがナニ?」

「今後は極力それは無しにしようという事になった」

「ハァ?お前が勝手にそういう事にしたってだけだろ」

「いーや?さっきザンザスに話は通してきたからな」




これは事実だ。それにたとえ揚げ足を取られたとしても、何の問題も無い。あの後、XANXUSは何かを思案して渋い顔をしながらも好きにしろと溜息を吐いたのだから。とは言え彼は堂々と欠席でもするのだろうが。そこに関してまで文句を言うつもりは無い――取り敢えず、今のところは。余りにも出てこないようであれば流石にちょっと詰ってやろうとはギルの心中である。




「フーン」

「…。時間になったら各自を呼びに行ってくれるようメイドに頼んでおくから、そうしたら食堂に。用はそれだけだ、邪魔したな」

「なぁ」

「、ん?」




扉を閉めようと腕を引きかけて呼び止められ、クイーンベッドの上に胡坐を掻いて携帯ゲーム機で遊んでいた少年を改めて見た。しかしそれきりで何かを言う様子は無い。心が読めるという事は無いが、大体の察しや想像はつく。纏まりきらないのか、上手い言葉が見付からないでいるのか、何にせよ待つのみだ。すぐには終わらないやもしれない。ギルは体を向き直らせ、片脚に体重を載せて楽な姿勢を取った。漣の方はどうなっているだろうかと思いを巡らせながら。――そして、ベルが重たげに口を開く。受け身で在る男の頭がつ、と動いては小さく首を傾げさせた。




「お前、ボスと仲でもいいワケ?」

「…まぁ、いい方だろうし。上手くやってる方だとも思うが」

「結局何なの」

「何なの、とは」

「しし、分かんねーフリとか要んねーから」

「本部からの監視員」

「そういうのも要らねっつの」

「…学友、ってのはこっちにゃ知られちゃいねぇんだな」

「………へー。じゃセンパイとも?」

「あぁ」




困惑、苛立ち。また、その2つばかりでは無く、驚きも新たに生まれた。ヴァリアーは中々に閉鎖的だ。本部の方では広く知られていた事も此方ではそうでは無いのだろう。となると、談話室で給仕をしてくれていたあのメイドはさぞや――床に視線を落としで微かに苦笑したようなギルに、ベルは前髪に隠れたその奥で眉を顰めていた。何を考えてそう笑ったのか。
そこでふと既視感を覚える。特に先程の問答、この男の顔に載っていた表情というのは終始一貫して、本意の読めないものだった。あの少女が本人の意思とは関係無しにそうしている、相手に対してそうさせているのだとするなら、此方は故意に隠している。…同じかよ、と思えど、しかしこの男のそれは面白いとは感じられない。但しつまらないというのでは無く、気に食わない、の意で。そうと判ってしまえば、感情が素直に表情に出る少年の口元は両端が極端に下がった。視線をベルに戻したギルはそれに気付き、何かしたろうか、見ていなかったのが気に障ったのだろうかと考えては取り敢えずとばかりに再び苦笑する。




「もう、行っても?」

「――お前が強いのは認めっけど、でもやっぱそういうの関係無しに何かムカつくわ。しししっ!殺してー」

「おっとそりゃ勘弁。まだ死ぬ予定は当分ねぇんでな」




肩を竦めて諸手を挙げ降参のポーズ。これ以上は居ない方が良さそうだ。とは言え別段慌てても焦ってもいないので、普通に扉を閉めたのだが。





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