提案



今日だけで既に3度目の訪問である。またてめぇか、と言わんばかりに顔を歪めたXANXUSとそれを見る漣の2人にギルは思わず失笑を堪える。それに気付いた部屋の主は大きな舌打ちをしてから、忌々しげな表情で口を開いた。で、何だ。その問いに答えたのは少女である。ご飯は皆で食べた方が美味しいです、と、否、色々と省きすぎやしないか。これには流石にギブアップ。失笑混じりにギルが言った。




「此処では食事は別々に取ってるって聞いてな」

「………」

「任務の時間が不定なせいで仕方ねぇ事なのは解ってるが、都合がつく奴だけでも一堂に介して飯食わねぇかザンザス」

「俺に言ってもどうにもなんねぇよカス」

「お前が言えばあいつらも従わない訳にはいかねぇだろ。今任務に出てる奴らが報告に来たらそれを言ってくれりゃあいい、ベルとスクアーロにはこの後で俺らが言いに行くからよ。…ザンザス、お前もちゃんと出てこいよな」

「てめぇの下らねぇ提案に付き合うつもりはねぇ」

「つれない事言うなって王様」

「おうさま?」

「昔あいつをそう呼んでたの」

「おうさまー一緒にご飯食べるですー」

「王様ー」

「…ッるせぇ!!黙れドカス共!!」




ふざけているような2人にXANXUSのこめかみに青筋がビキビキと立つ。あの後結局寝るのを止めた彼はそのせいでそもそも不機嫌であったのだ。それでも未だに銃を用いる事も、手を光らせる事もせずにいるのは相手の片方がギルであるからか。怒る男の手にしていた万年筆がミシリと音を出した。折れてしまってはインクが飛散して惨事になると辛うじて気付いたXANXUSは、それを机上に放る。この苛立ちは何処に向かわせればいいのか。
と、そこでギルが何事かを漣に耳打ちした。頷いた彼女が男の元へと小走りに寄っていく。訝しさと苛立たしさを混ぜた表情、紅い目がその少女の姿を追えば、それは己のすぐ傍らに。腕に手を滑らせて一体何だと言うのだ。




「ボス」

「触んじゃねぇ、離れろ」

「や。…ねぇボス、ご飯、一緒に食べようよ」

「、」




XANXUSが思わず喉を詰まらせたのは、漣が彼の頬にキスをしたからである。左の、傷の痕の上へと。横目を遣ると、サックスブルーの大きな瞳が此方を見つめていた。色は薄い類いであるのに、それはひどく深い、そしてとても澄んでいる。視線をギルへ移せばニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべている――あの野郎今すぐカッ消してぇ。一瞬引っ込んだ(それは実に認め難かったが)苛立ちがぶり返した。言葉だけでもぶつけてやろうと口を開いて、しかし少女に先を越され発される事は無い。




「んむ、ぼす、いいにおいする」

「、…あ?」

「ギル、私ボス好きー」

「おー。良かったなザンザス」

「何がだ」

「こいつが好きって言ったのは俺の知る限りだと、」




俺だけだ、と、男は微笑む。それの余りの柔らかさに、XANXUSは小さく瞠目した。





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