食事



そもそも食事中というのは静かであるべきなのやもしれないが、何も会話をするのが悪い事であるという訳では無い。節度を守ればいいだけの話だ。また、食事はやはり、極力は全員で取った方が良いだろう。というのがギルの考えである。但し郷に入っては郷に従えとも言うし、紅茶のセットをカートに載せてやって来たメイドへ訊ね事をした。自分とそう歳の変わらないだろう彼女は苦笑を浮かべつつ答えを返してくる。




「此処の食事というか、その風景なんだが、そこら辺はどうなってるんだ?」

「屋敷には食堂もございますが、まず滅多にそこでは…皆様が食事をお取りになる時間も中々まちまちですし」

「まぁ、任務も有るしな。部屋に運んでる感じか」

「はい。ルッスーリア様やマーモン様、ベルフェゴール様などは時折此方でもお召し上がりになられます。ギル様とレン様は如何なさいますか?」

「…どうする漣」

「これ美味しい」

「いやそうで無くてよ」




添え物として出されたシフォンケーキを頬張る漣に彼は呆れた顔になった。やっぱり手作りですか、と小首を傾げながら見上げてきた少女へメイドは肯定。誰かが土産として買ってこない限りは大抵は手作りである。ヴァリアーの拠点だろうがボンゴレの本部だろうが、それは特に変わらない。今日のこれはプレーンだから明日はココアのシフォンケーキが食べたいと言う漣に、シェフに申し伝えておきます、と柔らかな笑みでメイドは頷いた。




「俺としちゃ、なるべくは全員で飯食いたい訳だが…無理な話か」

「何で?一緒に食べようって言えばいいんじゃないの?」

「それであいつらが素直に頷くと思うかお前」

「…んむ、思わないです」




1ヶ所で一斉に食事を取る方が、メイド達にとっても配膳の負担が減って良い事だ。溜息を吐いて苦く笑うギルに彼女もまた同じものを薄らとして返す。下の人間はただ命令に従うだけであるから、表立って唱えはしない。しかしやはり、思う事はそれである。時間も場所もバラバラというのは面倒でならないのだ。
あちらでは、何より9代目の意向というのも有ってか基本的には食堂で大勢が集まっていた(とは言え幹部は幹部のみで、その下の連中は各々グループで幾つかに分かれたタイムテーブル方式ではあったが)もので、明るく、そして賑やかな食事風景であった。此処のそれはひどく寂しいのだろう。全く同じようになれ、とは言わない。だがもう少しくらいは、暖かいものにしてもいいのでは。




「――こりゃあ、ザンザスに言うしかねぇか」

「…、え?あの、」

「せめて夕飯ぐらいは全員で食いたいよなぁ」

「ご飯は皆で食べる方が美味しい」

「そーそ」




幾らボンゴレから派遣されてきた監視員とは言え、あのXANXUSが、そのような事で自分に物申してきた者をどうするかは分かったでは無い――顔を薄らと青くしたメイドの思うところとはそれだろう。彼女はギルが稀有な存在としてカテゴライズされているというのを知らない。何をしても、とまではいかないにせよ、他の大抵の人間は不機嫌や不快等による憤怒の鉄槌を下されるところ、この男は舌打ち程度で済まされる事を。
談話室に居るのは、ギルと漣と、それからそのメイドのみである。時刻は午後5時前。まず手始めにXANXUSの部屋へ行って、任務から帰ってきて報告に来た者には伝えてもらうようにする。ベルとスクアーロには此方で言っておけばいい。勿論、来るも来ないも個人の自由だ。ただ、提案したかしていないかでは違ってくるのだから。ふ、と口元に浮かべていた笑みを深めると、男はティーカップに残っていた紅い液体を飲み干した。




「漣」

「あい」

「一口」

「ん」

「…ん、それ食い終わったらザンザスんとこ行くぞ」

「あい」

「あと、スクアーロとベルにも声掛けて」

「…えー、ベルやだ」

「…じゃあお前スクアーロんとこ行ってこい。俺がベル引き受けてやっから」

「うん」



1つ頷いて、少女はまた一口ケーキを口へ運ぶ。





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