試合



ギィン!ガキィン!と金属のぶつかり合う音。激しく、強く、間を置かずに。刃の銀が煌めいた。それを振るう男は笑っている。楽しげに、嬉しげに。その両刃剣を受けるのは同じ類いのものでは無い。長い柄を手繰る男もまた喜色を滲ませていた。或いは、何処か懐かしそうな。彼が自在に操る槍は刀剣で言えば鍔に相当する部分に彫り込みの装飾のようなものが付いているが、それを除けば槍頭は特徴も無く形状だけを見るならただのショート・スピアである。




「…ッらぁ!!」




声と共に繰り出された鋭い一撃がヒットする――かと思えど、柄で受け流しながらギル自身も軌道上を逸れて避ける。動かした脚に合わせてザリ、と靴底が床と擦れた。よもやこうもすぐに得物を交える事になろうとは。こういうものには向かない革靴だ。対してスクアーロは勿論戦闘仕様のブーツ。そればかりかギルはジャケットを脱いだスーツ姿のままで、装備だけを見ると2人の向き不向きの差は明らかだった。
更には任務帰りと言え、内容とは最低レベルのDランクである。リング争奪戦後から本日に至るまで、ヴァリアーにはその程度のものしか回されていない。彼らが傷を負っており回復のためであった以上に、暗に謹慎の応急処分も施されていたからだ。溜まっていた鬱憤等々を晴らすかのように動くスクアーロと、片や実動と事務の割合に余り差の無い、しかも飲酒したばかりのギルである。――だがしかし、彼の表情に切迫や焦燥は浮かんでいない。


超高速で刺突が繰り出される。その斬撃はあたかも空間へ噛り付くかの如く。伴う空気の流動さえ研ぎ澄まされた刃として切り刻むかのようなものだ。それをギルは数歩後退しながら弾き、躱していく。刺突、斬撃は止まらない。柄をまるで己の身体の一部であるかのように、手首の動きは柔らかく、しなやかな身の熟し、滑らかな足の運びと共に捌く――微かに笑む口元に反し犀利に視線を遣る涼やかなダークゴールドと、そよりと毛先が小さく動くブラックグレー。相俟ってそれは、彼の獰猛で美しい、黒く大きな体躯を持つ肉食動物であるかのような。




「――鈍ってねぇみてぇだ、なぁ!『黒豹』さんよぉ…!!」

「ま、俺だってずっと、引き籠ってた訳じゃあ、ねぇから、なっ!」




一際高く、重く鳴り響いた。余韻に震える空気の中で、ギチギチと金属が迫り合う音が耳障りに続く。そろそろお開きってのはどうだ。と、問うかのように言ったのは銀髪の男では無い。もう疲れたよ俺、なんて、そんな事を一切感じさせない様子でけろりとその言葉だけを使ったギルに、スクアーロは呆れた顔を示した。




「嘘こけぇまだいけんだろぉ!」

「いやいやマジマジ。手ぇ痺れてきてる」

「…」

「お前俺が嘘言わねぇの知ってんだろうが」

「………、いや分かんねぇぞぉ!数年の内に、なんて事も、」

「ねぇから。ほら終わり終わりー」




力を強めて弾き飛ばす。呆気無く後方へ退いた銀髪の男だが、決して彼の気が緩んでいた訳では無い。押し負けた、という事実がただそこに生まれただけである。浮いた体、軽い音を立てて床に着地したスクアーロを尻目に、ギルは得物の槍を収めにかかった。ガキン、ゴキン、と解体していき、均等に3つに分解。まだ闘り始めて30分も経っていないだ何だと文句を垂れている男に背を向け、脱いだコートとジャケットを回収に腰掛けの方へ歩んでいきながらに、それらを左腰に付けているホルダーへと戻していく。




「ったくよぉ…」

「こっちゃあまだ使う部屋も決めてねぇんだっての」

「………。…あー、わりぃ、」

「全くだよ。漣とだらだら過ごすつもりがこれだ」

「――そういやぁよぉ、」




あのガキは何なんだぁ、と、スクアーロが訊ねた。無論、指すのは漣の事である。コートとジャケットを取るのに屈み込みつつ、どう説明しようかと考える。XANXUSにした話を何度もするのは正直骨が折れるのだ。服を掴んだ状態でしばし逡巡。取り上げたそれらを手に、扉へ向かいつつ横にスクアーロが並ぶのを横目で確認してから口を開いた。掻い摘まんで要点だけを話していけばいい。千里眼の事と、大まかな経緯と――あぁそういえば、今頃あいつは何処に居るのやら。
愛らしい仔猫を想ってギルはそっと息を吐いた。





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