「舌を噛んではいかぬ故に、束の間静まっておられよ。なに、落としはせぬ。これより定められし場へと、貴殿を送り届けよう」

「アサシン」
「、天草せんせ、ぇ?」
「首尾は上々かと」
「そうですか。ならば貴方の此度の任も、此れにて万事満了でしょう。また呼ばれるまでは通常に戻るといい。ご苦労、ありがとうございました」
「否。ならば良きにて。…この呪腕、此れにて失礼致す」

「久し振りです諸伏君。色々と疑問は尽きないでしょうが、取り敢えずはお疲れ様でした。飲み物は何がいいですか?大体の物は揃っていますから、静に頼んでくれればいい。それで、まずキミにはこれを見てもらいます。これを見れば概要は判るでしょうからね」

『ようヒロ、』
「ッゼロ?!」
『お前がこれを見てるって事は、お前は無事だって事だし、お前が今居るこの家は、俺が思うに地球上で最も安全な場所だよ。それこそ庁舎とかなんかよりもずっとずっと、な。何故ならこのディスクはこの家の中で、この家に元から在るプレーヤーを使って、彼らの内の誰かによって再生された場合でしか正常に再生されないからだ。…何の心配も要らない、お前はこれで助かったって、安心していいよ』
『事後処理やら何やらで俺はしばらく帰れない。この家に帰るとして、連中に怪しまれないようにするのはまぁ何とでもなるだろうってのが正直なとこだけど、念には念を入れても悪い事は無いしな。俺が帰るまでは此所で生活しててくれ。分からない事、気になる事は、彼らに答えられる範囲で答えてくれるだろうし、欲しい物もある程度調達してくれるから、潜伏、ってあんまり気を張らずにゆっくり休養する時間だとでも思ってればいい』
『…あとは…あぁそうだ、今そこに誰が居るかは流石に把握してないんだけど、もしそれが王様だったとしたら、彼に対してはとにかく素直にいた方がお前のためだ』
「…王様って誰だ」
『王様って誰だって思ったろヒロ。大丈夫、会えば嗚呼王様だってすぐ判るから。もー何て言うかな、視覚しただけで理解するから。うん』
「ええ、何だそりゃ」
『――ヒロ』
『お前が無事で、本当に良かった。皆が助けてくれるんだから上手くいかない訳が無いんだ、…無いんだけど、それでもやっぱり、お前が無事で、良かったよ、ヒロ』
「っ、あぁ、そ、だな、ゼロ、」
『あとはもう、こっちに任せろ。…それじゃあヒロ、また後でな』

「幾つか、訊いてもいいですか」
「えぇ。お答え出来る範囲でお答えしましょう」
「ゼロ、の、降谷零の義兄だというのは憶えてます。普段は確か…国立博物館に勤めて、?」
「はい。今日は単純に両方の仕事が無く、休みだったという訳です」
「そちらの…?」
「…申し遅れました。天草静、と申します。畏れ多いながら…時貞さんの実妹にあたります…」
「私とは一回り歳が違う静は、帝都大に在籍しています。今日は講義が午前だけだったようで…本当はあともう2人こちらに来ようかと打ち合わせていたんですが、あまり数が多くても休まらないだろうからと私と静だけになりました」
「…何かお飲みになりますか?」
「あ、っとー…じゃあ、水、貰えますか?」
「承りました」

「どう、して。俺、助けてもらったんですか。あいつが…頼んだのは、分かります。あいつの言う事や判断を信頼してない訳じゃない、そうじゃないが、でもこれは、」
「これは?」
「…っあまりにも、…危険だ」
「えぇ、承知していますし理解もしています。…けれど彼も、言っていたでしょう。此処は最も安全な場所だと。それは決して誇張ではありませんし、それは決して、この部屋のセキュリティーが強固であるからという、単なる理由だけではないのですよ」
「…」
「先端技術に然り、秘匿と隠匿に然り。防衛に然り――キミが今知る知識を以てしてでは、どうにも測り得ない部分においても、此処は確かに安全です。何せ彼の賢王と、彼の軍師が挙って手を入れていますから」
「…はぁ…、?」
「まぁ、それはまた追々、本人達から説明してもらえばいいでしょう。私も静もある程度までしか触れていない分野ですので、お答えしたくともそもそもの見識が足りません。…さぁ、他には?」

「………俺を…抱えて此処まで連れてきたあの髑髏面の男といい、…あの、死神みたいな、大男といい。…一体…何なんだ…?あれは本当に人なのか…?」
「――ヒト非ざるが人なるモノ。サーヴァント。英霊であり、使い魔である。…彼らはそういう存在です」
「ヒト非ざるが…人なる…」
「ヒトの身を超えた人。貴方にも零にも、私にも。その身のみでは敵わぬモノです。あれ程の痩躯とて大の男など、ヒトにとっての2キロの米袋と大差無いものでしょうし、ヒトの手にするナイフやマシンガン程度では傷がつくかすら怪しいものだ」
「トリカブトも…青酸カリも…ブラックマンバも…どんな毒であろうと、致死は意味を持たないかと…。ボツリヌスも、恐らくは同様かと推測しますが…如何せん私の"この"身はヒトの域を出ないので、検証出来ません…」
「それでもどうにかしようと考えるなら、それこそ兵器を持ち出す他無いでしょう。或いは…最早根元を絶つか。とは言え現状、これもほとんど無意味に近いですがね」
「………そのサーヴァントってのは、…使い魔って言うくらいだ、誰かによって呼び出され、呼び出した者の命令を聞くんだ、よな?」
「えぇ。基本的には、という前置きは必要になりましょうが」
「つまり呼び出したその誰かが、人を、殺せと言ったら」
「サーヴァントには、英霊には実に様々な気質のものが類します。性質、善悪の観念、生き様、信条と信念。人を殺せと言われて躊躇いを見せない者、躊躇いどころか嬉々として従う者、絶対的な強制力を行使でもしなければ断固として許さぬ者、理由如何では受け入れもする者。実に、様々なのです。必ずしも、召喚者のどんな命令にも従うとは限りません。…それで言えば、キミが関わったあの2人はどちらも最初の一例でしょう。自らを呪腕と呼んだ彼は特にそう。主の命に忠実なる僕です。…キミの"死を刈り取った"大男の彼も、大体はそうだろうと思いますが、彼は彼で少しばかり特殊ですから言い切れませんけれどね」
「あの2人は一体誰のサーヴァントなんだ」
「ふふ。そう険しくて困ったような顔をせずとも、あれらは今善なる主に仕えていますよ。明日会えますから、キミ自身で確かめてみるといい」



「おはようヒロ君。少しは寝れた?」
「……………れ、んちゃん………?」
「うん。お久しぶりです」
「、つまりどういう………え、?いや嘘だろ?少しどころかめちゃくちゃよく寝たレベルのスッキリ加減だしあーこれ夢?そっかぁ夢かぁ…?」
「いや、何だ。零くんの片割れは随分とポンコツだな」
「うーん。ヒロ君朝ご飯どうする?お腹空いてない?」
「あさごはん…そーいやめっちゃ腹減ってる気もする…夢って腹ァ減るもんだったか…?リアルな夢だな…味噌汁のいい匂いヤバい…」
「じゃあ一通り用意するね。座ってて」
「ハーイ…」

「何これ、浅漬け…何の?」
「キミの片割れの大好物」
「俺の片割れの大好物」
「セロリだよ」
「セロ…マジか。セロリの浅漬けめっちゃウマッ。てかそもそもセロリを浅漬けにするっていう発想がすげぇ…ウマッ」
「零くんもこれ大好きでさ。いつ帰ってきても出してあげられるように在庫切らさないでるの」
「そっかぁ」

「連中から連絡は有ったかい?」
「王様はお昼前くらいに一旦寄るって」
「了解」
「ヒナさんは2・3日は掛かるみたい。今丁度ライン来てる…あ、ほんとは今日クランクアップだったんだけど、クリス・ヴィンヤードがスケジュールすっぽかしたから途中から進まなくなったって」
「(クリス・ヴィンヤード…?!)」
「あちゃあ、そりゃ芥の奴カンカンだろうなぁ。ようやっと漣に会えると思ったらこれだ」
「根刮ぎバラし尽くしてやろうかって…どっちの意味か判断しかねるけど取り敢えず物騒な事ぼやいてる」
「あっはっは!」
「ヒナさんの好きなミックスベリータルト作って待ってるからお仕事頑張ってねって返しとけばいいかな」
「あぁ、最高だろうさ」
「、愛してるって即答してきた」
「ワォ、流石漣ガチ勢」



『ヒナコさん。俺に、演技指導をしてもらえませんか』
『はぁ?何、嫌よめんどくさい』
『ヒナさん、私からもお願い。これから向こう何年、零くんに必要なものなんです』
「――ハハハッ!…やだなぁ、これが僕の本性ですよ?」
『………私、教えるのってすごい苦手なの。ていうか嫌いね、大嫌い。…で。何をどう演技指導しろって?』
『!ありがとうヒナコさん』
『フン、漣に感謝する事ね』
「今までなんてねぇ、単にいい子ぶってたってだけなんですよ。だって最初からトばしてたら、アイツほんとに大丈夫か?って敬遠されるかもしれないじゃないですか」
『まず、演じる人物像を明確に、鮮明に。鋭利に頭に叩き込んで。その彼はこう在るべきと自身で自身に彼を根付かせるのよ』
『根付かせる…』
『そしてそれの、彼の在るべきタイミングを切り換えるための、ポイントを設定する』
『スイッチ、という事ですか?』
『そう。スイッチを入れる、スイッチを切る。そんな感覚で演じ分けるの。』
「せっかく良さげな組織を見付けたのに、それじゃ本末転倒ですから。ちゃあんと我慢出来るって事、解ってもらいませんとね」
『スイッチの在処を忘れてしまわないようにはすべきね。入れたが最後切って戻れなくなった、なんて馬鹿よ馬鹿』
『笑えないなそれは…』
『貴方のスイッチは当然貴方自身で管理しなければならないわ。だけれどその在処を知るのは、何も貴方のみでなくてはならない、という訳ではない』
「コードネームも貰えた事ですし。少し羽目を外しても、いいかなって。ふふ」
『貴方の場合も漣でいいでしょ。漣にも貴方のスイッチを切る事が出来る。むしろそれの方が重要ね』
『――…あぁ。…漣、』
『うん。分からなくなっちゃったら、おいでね零くん』
『…ん。俺の事、頼んだよ』





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