嘘のような恋 | ナノ

嘘のような恋


本当に、嘘みたいだ。


ふわふわと地に足が着かないような気分で、今日は帰路についた。
告白、成功。相手は入部初日から気になっていた部活の後輩で、一癖も二癖もあるヤツだ。俺との共通点といえば、サッカーに燃えている事くらい。趣味すら知らない。だけど、その熱い性格で俺に衝撃を与え、すっかり好きになってしまった。
にやにやしそうになる顔を抑えて、携帯を開く。先程交換したばかりの電話番号とアドレスがそこにあった。
キャプテンと部員の関係なのだから、いつかは交換するだろうと思っていたが、こういう形で交換できた事に無性に感動してしまう。
最初の一通はどんなメールにしよう。なんて乙女か! と自分でも思うが、こんなに浮かれるのもしょうがないと分かっている。
カチカチと操作して、とりあえず『よろしく』とありったけの想いを込めた照れ絵文字を文末に付け加えて送信。携帯を持ったばかりと言っていたから返信はそんな早くに来ないと分かりつつも、携帯を開けたり閉じたりしてソワソワと待つ。手元から振動が伝わってくれば、今だかつてない速度でキー操作をする。

『後ろ』

後ろ?
奇妙な返信に実際後ろを振り向いて見ると、そこには学校で別れた筈の件の後輩、吏人の姿があった。

「お前、なんでいんだよ」
「彼氏に随分な言い草スね」

彼氏という単語に過敏に反応する俺に、吏人は目を細めて微笑んだ。

「彼氏なら相手を送るもんだと思って追っかけました」

紳士だ。と思う反面、完璧な彼女扱いが気にかかる。
いぶかしげな顔でもしてたのか、吏人が「違うんスか?」と何を主語にしてるのか分からない質問をしてきた。

「付き合ってるのは違くねぇけど、俺が彼女なのか?」
「どう見ても佐治さんがそっちでしょ」
「なんだ、その偏見」

別に俺が吏人をどうこうしたい訳じゃないが、一応俺も男だ。そもそも相手が男なのが普通じゃないけれど、女扱いは違和感を覚える。

「だって佐治さん、こんなに可愛いじゃないスか」

そっと頬を触れられると、そこが紅潮するのが分かった。

「可愛くねぇ」
「可愛いですよ。顔も態度も少し長い綺麗な髪も」

伸ばしっぱなしの髪を褒められるとは思わなかった。吏人は俺の髪を解かすように指を絡める。
とても交際初日とは思えないスキンシップの多さにドギマギしてしまう。

「佐治さん、俺も最初から好きだったんですよ」

そのまま吏人の肩に抱かれれば、頭に柔らかい感触がした。
ダメだ。ヤバい。ただでさえ現実味がなかったのに、ここまで都合のいい展開をされたら夢だと思い込んでしまいそうだ。
自分でもあり得ないくらい赤くなってるだろうと顔を恐る恐る上げると、吏人が自信あり気な表情で俺を見ていた。


本当に、嘘みたいだ。
上手くいきすぎて幸せすぎる恋に、そっとキスが落とされた。