伝わらない告白の仕方 | ナノ

伝わらない告白の仕方


「佐治さん。付き合ってくれませんか」

春先。思わず眠くなるような陽気な気候。
練習後で人もバラけたグラウンドで、現キャプテンが声をかけてきた。

「付き合うって、ラウンドワンにか?」

以前こいつが誘ってきて、その時はこっちが断ったが、次に俺が誘った時には逆に断られたラウンドワン。
ボウリングには自信がある。
いつか絶対負かせてやろうと思っていたから丁度良い。
思わず顔を緩めて笑ってしまうと、吏人は硬い表情のまま「違うっス」と否定した。

「じゃあ何処にだ? 飯オゴりとかは無しだかんな」
「何言ってんスか。奢るのは俺の方でしょ」
「……そうか? 普通先輩が奢るモンだろ」

不思議なことを言うやつだ。
首をかしげていると、吏人は変わらず真剣な顔で距離を詰めてきた。

「俺、佐治さんと付き合いたいんです」
「だから何処にだよ」

話が噛み合わず、つい苛立った口調で返した。
すると、吏人は呆れたような失望したような表情になる。
心にぐさりと何かが突き刺さった。
一体なんだっていうんだ。

「分かりました。佐治さんにはまだ早いんスね」
「ちょっと待てよ。ひょっとして何かの試験だったのか?」

特別練習に『付き合って』なのかと、慌てて去りそうな吏人を引き留める。
それならそうと言えよ。
いくらでも付き合ってやるのに。

「また出直します」

吏人は俺の制止を無視して、そのまま部室へと歩いていってしまった。
なんだったんだ。
あいつはたまに主語がないから意味が分からない。
もやもやしながら、とりあえず練習しとけと、転がるサッカーボールを蹴りあげた。


2010/10/26