いつか 原作で出会えなかった二人の話。 もし、いつか。素敵な 'いつか' があったなら、オレたちはどんな会話をしているのだろう? 「なぁなぁユーシ。オレの練習もみてよ」 少年団の子供たちに熱心な指導をしているユーシ。 それをベンチから、奢ってもらったアイスの棒を咥えて見ていた訳だが、どうにも飽きて暇になった。 「なぁ、なーあー。ユゥーシー」 ちろりと一瞥くれただけで無視しやがったユーシに、しつこく連呼してせがむと、「ユーシ、アレ」と糞ガキが生意気な指をこっちに向ける。 'ユーシは大きく溜め息を吐いて、ガキ共に次やる練習メニューを言い渡し、せかせかとオレの所までやっと来た。 「京介。アイス食べたら大人しくするって言ったろ?」 「残念。もうアイス食べ切っちゃたから時間切れ。また買って?」 「オマエ、何本食べるつもりだ! オレの財布がすっからかんになるだろ!」 「ユーシが構ってくれればアイス要らないんだけど」 「だーかーらー練習中だって言ってるだろ!」 むくれた顔で、何度も何度も聞いた言葉をユーシはまた繰り返す。 「終わったら、いくらでも付き合ってやるから」 「ひどい! ユーシは私よりも子供たちの方が大切なのねっ!」 「なんのマネだ。なんの」 「いや、ぶっちゃけさ、終わったら明日の準備が〜とか言ってさっさと逃げるだろ? まだ終わってない。オレの戦いはこれからだ! とかなんとか言って」 「それは……な、忙しいんだよ」 どこか逃げ道はないものか、とユーシは苦笑いで思案を巡らす。 まぁ暇な学生のオレと違って、立派な社会人であるユーシが多忙だなんて始めから分かっていたことだけど。 「分かったよ。ユーシ、今度一日オレの為に時間を作ってちょうだい。それで暫くは静かーにしてるよ」 「……また直ぐに時間切れとか言うんじゃないだろうな?」 「言わないって。代わりに早めに時間作ってくれよ」 「わかった」 「じゃあ、また後でな」とガキ共の元へ戻っていくユーシ。それに手を振るオレ。' 「ここにいましたか」 コンビニ袋を手に引っさげたメイジが、息を切らせてやってきた。 それからユーシたち少年団へと視線をやると、直ぐにオレに戻し「懐かしいんですか?」と聞く。 「別に懐かしがってる訳じゃないよ」 「でも急に走り出しました。どうしてですか?」 メイジのコンビニ袋には、先ほどまでオレが食べていたアイスと同じ物が入っている。 学校の帰り道、メイジとアイスを食べようとなって一緒に買ったものだ。ユーシに奢ってもらったものなんかじゃ、当然ない。 コンビニに寄った後、オレは勝手にメイジを振り切ってここまで来た。 'あのユーシって少年団の監督は、よく子供たちに物を奢ってる' '仲良くなったらオレにだって奢ってくれる' そんな'いつか'を妄想して、より具体的なイメージを浮かべるためにわざわざ来た。 という、どうしようもない事実。 「たまにはこういうのもいいかも知れません」 口をつぐむオレにとばっちりを受けた筈のメイジは、気にしてない様子でオレの隣に座った。 丁寧な動作でアイスの袋を開ける。アイスは大分溶けていた。 「……ごめんな、メイジ」 「どうして謝るのですか」 メイジは大人だ。奇妙な行動をとる先輩の顔を潰さないようにしてくれる。 オレもメイジみたく大人だったなら、ユーシと仲良くなれる'いつか'が来るんだろうか。 「……それに」 メイジがべちょべちょのアイスを器用に崩さず一口食べると、いつもの口調で言った。 「メイジじゃありません。鳴路です」 思わず笑った。 遠くでユーシが安心した顔で、こっちを見ていた気がした。 早く、あなたと気兼ねなく笑いあえる素敵な'いつか'が来ますように。 2011/05/31 |