瓦礫の王さま 瓦礫の王さま、彼の下には役立たずの瓦礫が積まれてる。 無駄な瓦礫を踏みつけて、王さま粉々にして遊んでる。 オレは自分のことをとても優しいと思っていた。 憎む、恨む。そういった感情と無縁の平和主義。 なぜ? なに? と聞かれれば、素直に答える正直者だ。 ただ聞かれた延長線上で厳しい現実を教えたりする現実主義。 それが悪いことだなんて、これっぽちも思ってなかった。 無駄だよ。やめちゃえ。 何人がオレの言葉で好きなものを諦めただろう。 『どうせ辛くなるだけだから』無駄だよ。『辛くなるために時間を浪費するくらいなら』やめちゃえ。 何人がオレの言葉をそう読み取ってくれただろう。 小さい頃はみんな愚直で、簡単にオレの言葉を飲み込んで無駄を手放した。 大きくなるにつれて未練が強まるのか、ユーシさんといい何人かの中学の奴らといい諦めが悪いのもいた。 その中でもリヒトは格別だった。 憎み、敵意を露にした表情。 憤り、オレに向かってくる姿。 恨み、許しはしないという感情。 どれも穏健とは離れたものなのに、リヒトは正義でオレは悪。 段々と周囲はそう扱うようになった。 どうして皆、現実から目を背けるの? オレはただ、親切に、いつかブチ当たる問題を、本当に辛くなる前に教えてあげてるだけなのに。 人は都合の悪い現実を信じないのだと、オレは学んだ。 可哀相なリヒト。『最強』を夢見てる愚かなリヒト。 リヒトには確かに才能があるけれど、『最強』には到底なれやしない。 世界を見れば直ぐにわかることだ。他とは抜きん出た才能をもったオレだって、ポテンシャルが違う。『世界最強』は無理なんだ。無駄なんだ。やめるべき、挑戦。 だけどリヒトは分かってくれない。 何度叩きのめしたって、何度罵倒したって、リヒトはその度に立ち上がってくる。 無駄だよ。やめちゃえ。 ふざけんな。 無駄だよ。やめちゃえ。 そんなの二秒で切り返す。 無駄なんだよ。やめちゃえよ。 関係ねぇ。 無駄だって。やめろよ。 オレがやるかやらねぇかだ。 無駄なんだ、やめてよ。 …………。 ……お願い、分かってリヒト。 「シアン、これでも無駄だって言うのか」 久しぶりに会ったリヒトとの公式試合。なかなか折れてくれないリヒト。そして予想外の再会。 それまでオレに手折られる脆さだったリヒトの意志の翼が、大きく会場に影を落としていた。 「オマエが何に絶望してそんな諦めてんのかは知らねぇ。だけどな、一つだけ言わせろ。無駄なことなんて一つもないんだよ」 それだけ言うと、途中だった試合を再開しにリヒトは走っていった。 オレが無駄だといったその技術で、オレを抜かして、他の選手も抜かして、先へ、先へ。 オレの中に確固としてあったものがガラガラと崩れていくのが分かった。 瓦礫の王さま、彼の下には役立たずの瓦礫が積まれてる。 無駄な瓦礫を踏みつけて、王さま粉々にして遊んでる。 それは本当に無駄だったのか。 オレが粉々にしてきたものは……。 もう、踏みつける足場の瓦礫はない。 2011/04/02 |