魔法使い | ナノ

魔法使い


影山くんはおれの魔法使いだ。


『その感覚、掴んで放すな』

影山くんの言葉が力強くおれの中で響いた。
なにをやっても失敗ばかりのおれ。そんなおれを見つけて表舞台まで連れて行ってくれた影山くん。
影山くんはすごい人だ。目を瞑ってスイングしただけでスパイクが決まった。自信が持てないおれに希望と勇気をくれた。最初から、今でも影山くんはすごくて、同い年とは思えなかった。
影山くんに褒められたのが嬉しくて、影山くんの役に立てたと思うと嬉しくて、影山くんのために頑張ろう。今までの人生で失敗ばかりのおれを信じてくれた影山くんの願いを叶えよう、本気でそう思った。

「影山くんって魔法使いみたい」

そう言うと、影山くんはトスしかけたボールを落とした。なに言い出すんだ。目がおれに驚いたことを伝えた。

「確かに。魔法使いだな」

キャプテンがいつもの朗らかな顔で笑う。

「スパイカーを活かす力は魔法みたいだ」
「……やめてくださいよ、キャプテン」

珍しく影山くんが照れたと思った。ら、違った。

「練習中ですよ。雑談は後にして下さい」

フイッと愛想なくボールを拾いに行く影山くん。頬は赤くなってないし、挙動不審なところも見当たらない。照れ隠しじゃなくて、本当に言葉通りのことを思ってるんだ。そう分かった。

「影山くん」
「日向も練習しろ。お前が一番しなきゃいけないんだから」

影山くんは綺麗なトスを打つ。他の部員がスパイクを決める。完璧な動作。でも。

「影山くんはおれの魔法使いだよ」

もう一度影山くんの驚いた目がおれを見た。誰よりも影山くんを必要としてるスパイカー。誰よりも影山くんが、影山くんだけが活かすことのできるスパイカー。影山くんの魔法が一番かかりやすいのはおれなんだ。

「さっきからなに言い出してるんだ」

ボールを頭にぶつけたのか。そんな心配気な声色だった。

「なんでもない。練習、する。トスお願い」

戸惑った影山くん。でもトスは相変わらず正確。それをおれは、今までで一番高いスパイクで決めた。


2011/01/14