からかいたがりの心境 | ナノ

からかいたがりの心境


佐治さんはかまわれたがり。放っておくと何かにつけて絡んでくる。その絡み方が多少暴力的で痛い時もあるが、それをネタに佐治さんをからかうと面白いほど可愛い表情を見せる。

『吏人!』

からかいすぎると、苛々した口調で名前を呼ばれる。ぐいぐい近づいてきて、何をするかと思えば『寂しかったんだからしょうがないだろ』と言わんばかりにくっつく。長い髪が俺の首元をくすぐって、手と手が重なる。幸せな時間ってこういうことを言うのだろうな、と出来るだけ長く続くように、そのまま緩く時間を過ごしたくなる。

『佐治さんって女の子より断然可愛いですね』

一回そう褒めたことがある。一瞬ポカンとした顔をした後、徐々に紅潮していく佐治さんの顔が忘れられない。ごちゃごちゃ『嬉しくないからな』『男にそんなこと言うなよ』と怒られたが、それすらもいじらしくて可愛らしい。恋は盲目らしいが、佐治さんの可愛さは正真正銘の可愛さだ。自分でも、こんなに一人の人に夢中になるなんて思わなかった。

『どうした吏人?』

佐治さんの可愛さに当てられていると、ボーッとしているせいか不思議そうに窺われる。迂闊に本音を言いそうになり、頑張って抑える。言ってしまったら、今度はこちらがからかわれる側になってしまう。きょとんとする佐治さんに『何でもない』と簡潔に答え、余裕ぶって頭を撫でることが多い。その時のふんわりとした佐治さんの笑顔も俺は好きだ。この一連の佐治さんを見る為に、からかうのを止められないと言ったら、佐治さんはどんな反応を返すのだろう。そんなからかい方もいい。


「吏人、ちょっといいか?」

ベンチに座ってそんなことを考えていると、丁度佐治さんがかまってほしそうにやって来た。さて今日はどういう風にからかおう。愛ゆえに性格悪く、俺は「どうしたんスか?」と返事した。