思春期ですから | ナノ

思春期ですから


佐治さんは人前で触れられることを酷く嫌がる。
肩組みは自分からするし、練習中に偶然触れたりとかは気にしないが、恋人らしく手を繋ごうとしたり抱きしめようとすると逃げて非難する。

「人前だぞ? 考えろよ!」

人前? 気にする必要なんてないじゃないか。だが、無理矢理にでも続けようとすれば佐治さんから手痛い反撃を喰らう。物理的に痛いが、その後口を利いてもらえないのは精神的にもクる。

「なら、いつなら良いんスか?」

聞けば、二人きりの部室や室内なら良いというので狙って残ってみるが、及川や柚絵さんが変に気を利かせたり、佐治さんが先輩方に誘われたりと上手くチャンスが来ない。数えれば、五日もまともに触れてない時がある。
そして今日、記録更新の六日目に入ろうとしている。
もう、我慢できなかった。


「佐治さん」

たっぷり練習して、へとへとになって部室に雪崩れ込む他部員と一緒に佐治さんもロッカーに手をついてうな垂れている。話しかけると、「どした?」と疲れた声を気張らせて答えた。

「失礼します」

一応断ってシャツの下から手を入れると、腰や腹を触られた佐治さんの身体が悪寒を感じたように小刻みに震えた。先輩方や及川の視線が、俺たちに釘付けになってるのが分かる。

「な、りひ……っ」
「ただの身体検査です」
「それは蘭原の仕事だろ!」

佐治さんの言い分は最もだが無視する。「柚絵さんは他の部員を診て大変なんスから」と言えば、名目たったのか多数の視線が外された。だが、流石に佐治さんは俺の本当の目的を分かっているようで弄る俺の手を必死に外そうと試みている。

「やっめろ。なんも問題ねぇよ」
「アンタに倒れられちゃ困るんで」
「だから問題ないって!」
「自分じゃ気づかないこともあるんスよ」

手を胸まで上げると、佐治さんは更に慌て出す。

「待て待て待て。ちょっと待て」
「きちんと調べないと意味ないじゃないスか」

硬い胸を、筋肉のラインを沿うように撫でる。
僅かなふくらみに触れようとすれば、佐治さんは首を大きく振った。

「分かった。吏人。分かったから、今は止めてくれ」
「なにが分かったんスか?」

佐治さんは周囲を見ながら小声で、「我慢させたって分かったから」と困り顔で言った。

「だから、必ず後で……なっ!」
「必ずですよ?」
「あぁ、約束するから」
「分かったっス」

手を離せば、佐治さんは安堵して肩を落とした。

「佐治が慌てるから妙な関係に見えたぞー」

先輩の冷やかしに、佐治さんは「ふざけんな」とドスの効いた声で牽制する。
そこまでひた隠しにされると複雑な気分だが、それも含めて後で清算してもらおうと手に残る佐治さんの感触を握り締めた。