今日のアレルヤの周りの雰囲気が限りなく黒に近いくらいどんよりと曇っていることに気づいたのは一体客の中に何人いるんだろう、と俺は思った。因みに俺はいつものように銭湯の玄関戸を開け、番台に居たアレルヤを見た途端に気づいた。個人的にはアレルヤの事を理解するのは俺だけで十分だ、だとか思ってみたりするんだが、残念なことにおそらくかなりの数の人が何かしら感じとっているに違いない。なぜならアレルヤは感情をこの上なく表に出しやすいからだ。ちょっとでも隠してることや不安なことがあったら、ただでさえはんてんでもこもこと丸く見える肩が尚更なだらかに下がってしまうし、精一杯元気を出そうと努力しているのが こちらに伝わって来る。よくいえば素直すぎる。まあ簡単に言えば嘘はつけないというわけだ。大体この前のいざこざだってこいつの勢いあまった素直さから生まれたし、こんな感じだから、会って間もないうちにゲイだということをカミングアウトしてしまったのかもしれない。いやあれはただ単にアレルヤがどこぞの中坊の思春期並みに暴走したからか。まああのぐちゃぐちゃなアレルヤも今思えば随分かわいかったんだけどな、と俺はゆっくりあの時を回想しながら、時々銭湯を見回りに来る恋人をチラチラと見遣っていた。どうやらあの様子だと昨日何かが起こったのだろう。昨日アレルヤの身に起こりえそうな出来事を考えてみる。もうずいぶん入ったままの浴槽の中で腕を組むと、頭の上に畳んでおいていた白いタオルがずり落ちそうになって、俺はうーんと一丁前の老いぼれみたいに唸り考えながら乗せなおした。これはおやっさんに教えてもらった、銭湯や家の風呂に入るときにやるべき行動だ。お湯でしとどに濡らしたやつを頭に乗せるとじわりと温かさが伝わってきて気持ちいい。話は戻るが、昨日のことだとしたら一番可能性のあるのは弟関係だ。一つ疑問があった。それはアレルヤの、久しぶりの弟の再会にはあまり相応しくない反応だった。あの俺に対するすまなさそうな顔。あの顔には弟に会えることに対する嬉しさや期待が感じられなかった。ただひたすら俺に謝っている顔だった。気のせいかもしれないがそう思った。俺も厄介な弟を抱えている身だから気持ちは少しだけ分かる気がする、心中お察しします、というやつ。でもそれは俺が俺だからだ。アレルヤみたいな心の中を掻っ捌いても黒いところがどこにも無さそうな、いや絶対無いに違いないような人間なら感動の再会をもうすこし喜んでもいいはずだ。どっちかっつうと弟を溺愛しそうな気さえする。だがそれは違った。そして今日会うと、アレルヤはまた違う表情を見せていた。今度は気抜けしていた。心ここに在らずというといいすぎかもしれないが、でもそういってもいい位にすっからかんな元気を見せていた。いつもと変わらない笑顔だろうと自分で見込んでそれを張り付け客に挨拶するアレルヤ。ばればれだって。とまあそんな感じだから、俺が風呂から上がってきた時にアレルヤから「後で話があるんだけど……」と何気ない感じで声をかけられても、俺は何の疑問も感じなかった。







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