「というわけなんだ、ごめん」
「まじかよー…」
大袈裟そうにがっくりと肩を落とすニールを苦笑しつつ見ながらも、今日のお誘いは丁寧に断った。本当に申し訳ないけど、一生にあるかないかの弟の連絡を無下にするわけにはいかない。アレルヤは脱衣所の掃除をしようとモップを持ってきたところで、そこにはもうニールといつもの二、三人のお客さんしか残っていなかった。一応お客さんに許可をもらってから掃除をしつつ、ニールに自分の弟が家に来ることを話したのだった。
「やっと明日は休みだってのになあ」
「ごめんね、ニール」
「でも初めて便りが来たんだよな?」
「そうなんだ。もうてっきり手紙なんてよこさないと思ってたのに、どういう風のふきまわしなんだか…」
「淋しくなったんじゃねえか?ホームシックならぬお兄ちゃんシック?」
それを聞くと僕は軽く笑った。
「ないと思うよ。誰かに頼ったりとかしたこと無いし、そんな性格じゃないしね」
「そっか。…ま、でも弟なら仕方ない」
ひとつため息をついて妥協したようなしていないような顔をしたニールは、脱衣所の長い椅子に座って頭を拭きはじめた。アレルヤはニールがタオルで粗雑に頭を乾かすその仕草が何故か好きだった。ニールに感づかれないようにちらっと見ながらその横で床を黙々と拭く。毎日が多忙なおかげでなかなか二人きりになれないニールとアレルヤにとってはこの時間でさえ貴重なものだった。今日は職務室で何が起きてどうしただとか、イアンさんがまたどうこうしだして大変だとか、一日の報告みたいなことをニールが喋り、それに相槌をうつという形でいつものようにだらだらと話をした。寒さと冷たい湿度で覆われた脱衣所に響いて、体全体でニールの声を感じるのがすごく良い。内容ももちろん面白い、だけどこの声が何よりも仕事に疲れた僕を癒してくれる。しかしそうするうちにもお客さんは一人また一人と帰っていき、アレルヤが床を拭き終わる頃には結局二人きりになった。するとニールは最後の一人が帰るのを見ると、ちょっと来いよ、とでもいうようにちょいちょいと僕を手招きした。掃除道具を片付けてから椅子に近づく。と、ニールが急にくいっとアレルヤのはんてんを引っぱって、向かい合わせになるようにアレルヤを膝に座らせる。アレルヤが大した反応を示せずにただ呆然としていると、ニールはアレルヤに抱き着いて、ちょうど胸元あたりに頭をぐりぐりと寄せてきた。
「………?どうしたの、ニール」
「…アレルヤの補給」
はんてんのせいでわずかにくぐもったニールの声がもごもごと聞こえた。少しびっくりしたけれど、その態度や言葉がまるで甘えている小さな子供みたいで、僕は思わずくすくす笑いながらもあやすように彼の頭を撫でてあげた。まだ少し濡れている彼の髪をいじりながら梳いてあげると、仄かに香る石鹸の匂いが鼻腔をくすぐった。
「意外に甘えたさんなんだね」
「アレルヤ限定でな。つーかこのはんてん本当にいいな、暖かそうで」
「ニールも着るかい?まだ家にあるから一つあげようか?」
「…いや、俺が着たらなんか見た目がいたたまれないから嫌だ」
それよりもやっぱお前の触り心地って最高だな、とかなんとか言いながらニールが抱き着くのをアレルヤはしばらく見つめていた。しかしあんまり長い間そうしているものだから今度はこっちの方がなんだかどきどきしてきて、離れようとニールの腕を外そうとした。なのに彼の腕はアレルヤをがっちりと掴んだまま離さない。いつまでもこうしているわけにも行かないし、このままだと鼓動が早いのがばれてしまいそうで恥ずかしくて、ぽんぽんとニールを叩いてみた。ニールは動かない。
「ちょっと…ニール、そろそろ」
「なんか離したくなくなってきた」
「ええっ」
そんな、さっき弟の話をしてたばかりじゃないか!早く帰らなきゃいけないって言ったのに!僕が慌てて手を解こうとすればするほど、ニールは離すまいとしがみついてきて身体がひっついた。嬉しいやら悲しいやらでなすすべもなく途方にくれていると、ふとニールが身体を押し付けてくるのに違和感を感じた。い、言いたくないけど、……何となく密着させられたようなニールの下半身がわずかに硬くなっている……気がした。
「ニール……もしかして」
「あ、ばれた?」
アレルヤはようやく胸元から顔を出した彼を見る。するとその顔にはどうみても下世話な、欲のような表情が入り混じっていた。ニールはばれたと分かった途端に自分の腰を若干揺らめかせた。
「いや、なんか…アレルヤの匂いかいでたらつい勃起しちまっ…」
「そそそそんなこと言わないで!駄目だってば!今日はハレルヤが」
「でも何時に来るのか言ってないんだろ?ちょっとくらい遅くなってもいいって」
ニールはわざと声を低くしながら少しずつアレルヤに回していた腕を下に下げていき、尻を指で優しく揉みこんだ。
「な?アレルヤ…ちょっとだけ」
「いや、や、今日は……!」
アレルヤが抵抗するのをよそに、片手でアレルヤの自身にズボンの上から触れる。彼の手つきは本当に滑らかでいやらしくて、こんなに巧みに触られたら反応しないわけが無い。アレルヤの身体が正直にほてりはじめるのを察すると、ニールはしめた、とばかりに本格的にアレルヤに愛撫を施しはじめた。片手で易々とセーターをめくりあげ胸元まで押し上げる。
「ニール!」
「大丈夫大丈夫」
何が大丈夫なんだ!とアレルヤが心の中で糾弾するのもなんのそので、ニールはそこからちらりと覗く赤い乳首を舌でちろちろと突くように舐めた。
「あっ……やだ、ほんとにだめっ」
「ほんと、可愛いくて素直な奴だなあ」
「ちがうって、ニールっ……」
アレルヤは胸から沸く快感のやりどころに困り、弱々しい抵抗を続けながらも実際のところは確実にニールに負けかけていた。快感にどうしても身体が興奮して従ってしまう。家でじっと大人しく(というのはアレルヤの完全な妄想だが)待つハレルヤが頭の端でぼんやりと浮き沈みするのをなんとかつなぎ止めながらも、アレルヤは最後には誘惑に負け、心の中でごめん!とハレルヤに土下座した。終わったらすぐに行くから、だからもうちょっと待ってて!








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