太陽が真上に昇ってもまだなお寒い冬の昼過ぎ。はんてんがどうにか体温を外から守り抜いてくれることに感謝しながら、アレルヤは今日も今日とて番台の仕事を勤めていた。ほんの先程浴場の掃除が終わったので、あとはお客さんが来るまで番台でのんびりして待つだけだ。アレルヤは掃除道具をしまいこみ、番台によじ登っていつもの空間に座る。手をタオルで拭いてから水筒に入っている暖かいお茶を器に注いだ。ぶわりと水筒の口から白い熱気がたちのぼってアレルヤの顔を湿らせ、思わず目を瞬かせる。さっきの掃除で手足が濡れて冷えてしまったので、水筒のお茶に熱伝導によって温められた器がじんわりとしていて有り難い。アレルヤは熱そうに少しずつお茶を啜って、ほう、とため息をついた。この時間が好きだ。先月分の帳簿はもうつけ終わってしまっていたので今日は特に何もすることはないけれど、こうやってのんびりと高いところで寛ぐのはなかなかに良い。毎日のように外から聞こえてくる子供達の声や時折通り過ぎる自転車の音、竹の物干し竿売りの陽気で高らかな声が、換気のために開けっ放しにしている窓から日光と共に流れ込んでくる。それを聞いているとふと心が和む。これはニールが一緒に居てくれるようになってから、何気ない日常により一層の魅力を感じるようになった事もおそらく関係していると思う。彼は本当に人生に丸ごと影響を与えるすごい力を持っている。もう今が幸せの絶頂期ともいっていい。何も変わらない日常、そこに彼が加わったことでいいようもない楽しさを見出だしたところだった。されどもしかし、である。安らかな気持ちを感じながらも、アレルヤは鞄の中を探ってそこから一枚の封筒を取り出した。問題はこれ。これは今朝の郵便受けに入っていたものだ。朝から家の掃除をしていたら意外と時間を食ってしまったので、銭湯に着いてから読もうと思ってここに持ってきていた。普段は新聞と広告しか届いていないのに、今日になっていきなりこの真っ白な封筒が郵便受けにあった。宛て先も切手も消印も書いていないところをみると多分直接誰かが入れたのだろう。珍しいこともあるなあと首を傾げながらアレルヤは丁寧に封を破った。封筒の上のところを文房具入れから取り出した鋏で切って中からこれまた白い便箋を出す。三つ折りにされたそれを広げた。文章はほんの四、五行しか書かれていない。黒いペンで書かれた文章の一番下の行の文字列を見て、アレルヤは衝撃で思わず息を止めた。
「ハレルヤ…?」
そこにはとても丁寧に綴られた筆跡があり、確かにハレルヤと名前が書いてあった。間違いない、これはもう何年も便りがない自分の弟の名前だ。思い返せば大学を卒業してすぐのあの日、誰にも何も言わずに一人で勝手に家を出ていってしまった弟の名前。アレルヤは一気に動悸が速くなった気がした。と同時に様々な思いが駆け巡る。どうして今まで連絡をくれなかったんだろう、そして何故今になって連絡をよこす気になったんだろう。元気にしているのだろうか、真っ当な暮らしをしていけているのだろうか。それにこの綺麗な文字は一体誰の…?僕はハレルヤの汚いぐちゃぐちゃの文字しか見たことがない。手紙に対する嬉しさよりも、アレルヤは胸から沸き上がる違和感の方が隠しきれなかった。ハレルヤと書いてある以上は弟からの手紙のはずなのに、この手紙からは弟のかけらが微塵にも感じられない。全く知らない人からもらっているみたいだ。理解するには疑問が多すぎた。一抹の不安を感じながらアレルヤは短い文章を目で追う。そこには今まで音信不通だったことに対する軽い詫び、そして今夜アレルヤの家に向かうということだけが短く書いてあった。






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