起きた。しかし意識は覚醒してもなかなか目までは開いてくれない。それをこじあけてぼんやりと霞む色を見てみたが、まだ辺りは暗いらしく何も見えなかった。感じるのは温かみと僅かな汗の匂い。そういえばあの後なにも処理せずに寝たんだったな、と少し後悔しながら布団を被る。それはアレルヤの身体をすっぽりと包み込んだ。心地好い温かさを帯びているのが気持ち良くてまたうとうとと瞳が瞼に隠れようとする。疲労感が半端じゃない。寝返りを打つたびに腰と尻のあたりに鈍痛を感じて眉をしかめた。普段より何倍も億劫だ、この状態で今日一日働き切れるだろうか。布団から顔だけをだして時計をみると、まだ、いやもう6時をとうに越していた。2時間くらいしか寝ていないけれど、あと1時間くらいで起きなきゃいけない。……いやそれよりも早く起きて身体から昨日の名残を掻き出さなければ大変なことになる。朝から生々しいことを考えて若干恥ずかしくなり、妙な疎い気分に陥りながらのそりと寝返りを打つ。ニールはもう起きたのかな…何の音もしないけど。あれ、そういえばニールは?さっきから気配が全くない。布団だって完全に独り占めしている。アレルヤはばっと身を起こし、周りをきょろきょろと見渡した。ニールが居なくなっている。彼は出勤時間が人よりも早いのを思い出した。それにしてもいつの間に帰ったんだろう、こんな短時間でちゃんと寝れたのかな。
「あれ………」
アレルヤはようやく心身共に目覚めると、ある意味な違和感をふと感じた。身体は確かに重いのに、動いても腹部から昨日の残骸が滲んで来ない。あれだけ中に出したんだからそんな訳はないと思うけど。……ということは、自分が寝ている間に彼が処理をしてくれたのだろうか。しかしどうやらそのようで、ごみ箱には昨夜は無かったティッシュの丸まったものが幾つも入っているのをアレルヤは見つけた。彼なりに一生懸命気遣ってくれたのが良く分かる。嬉しくなって、よしっと気合いを入れてから立ち上がった。いつもの服に手早く着替えると、シーツを布団から外して丁寧に手で洗い、外に出て物干し竿にかける。まだ外は少し暗いのに、いつもよりずっと明るく見えるのは気のせいだろうか。郵便受けから少ない広告や新聞を取ると、これもニールが運んでくれたのかと思いついにやけてしまった。家に入り、飲み散らかした後がそのままだったから空き缶を集めて水洗いして燃えないゴミ入れに放り投げ、グラスはもちろん戸棚へしまう。てきぱきと後片付けをこなしていく。なんだか気分が良くて朝ごはんも鼻歌を歌いながら作ってしまった。今日はブロッコリーの胡麻和え、ごぼうと竹ノ子と鶏肉の煮物にお漬物。ちょっぴり豪華な朝ご飯を綺麗な箸使いで口に運びつつ、新聞や郵便物に目を通していった。精肉屋の広告に豚の切り落としの底値が乗っていたから買っておこう。白菜も切らしていたから買わなきゃいけないけれど、一つまるごとだと一人で食べるには多過ぎる。だけど特売品だからなあ…。そんな事を考えながら大事なことを頭の中にメモし他の葉書などをざっと見ていくと、急にぱさっと音がして、郵便物たちの間から一枚の紙切れが落ちた。葉書でも封筒でも無い、どこからか破ってきたような紙片だ。誰かが直接入れたらしい。アレルヤは口をもぐもぐやりながら箸を置き、畳まった紙を広げた。するとそこには黒いペンで書かれた男物の筆跡があった。
「んーと……しごとがあるか、ら、さきにでたけど、こんどのあさはぜひてづくりのごはんをごちそうしてください……?」
読み終えると笑った。誰からの言葉かは言うまでもない。なんてあつましくて可愛いお願いなんだろう。今度だけじゃなくて毎日だって作ってあげるのに。なんだかじわじわと熱を持った言葉にできない気持ちが胸につかえて、アレルヤはふにゃりと微笑んだ。ニールに会えて本当によかった。今までもこれからも、こんなに優しい気持ちをくれる人はこの人だけなんじゃないかなあ。つくづく思いながら、アレルヤはその紙切れを大事そうにポケットの中にしまい込んだ。ちょうどいいじゃないか、白菜は一つまるまる買ってしまおう。








(終)


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