彼と出会ってから、始めての感覚を味わうことが度々あった。今だってそう。依然の男の人達となら何にも感じなかったセックスの後でも、ニールといるとほんのりとだるくて心地がいい空気が僕達を包み込んでいるねを感じる。僕もニールも色々な意味で散々やりつくした感じがして、まだ仄かに荒い息もそのままに汚れたシーツの上に寝そべった。吐く息が湯気みたいに上るのを見て、やっぱり今日も寒いんだなあと思う。外も真っ暗で、明々と僕達を照らす電球を見つめた。真冬の夜中に汗をかいている状況なんてそうそうないから可笑しかったけど、それよりも何よりも僕はいま幸せだった。
「あっちー……」
一体何回セックスを繰り返したのかは分からない。でも少なくとも僕のお腹の中に、身動きするだけで彼の白濁が溢れるくらいにはやったのは疑いようも無い。ニールははっきり言って今まで出会った中では一番の絶倫だった。僕が出す精液が無くなってしまい空の状態で達している時も、彼は構わずに射精し続けていた。お陰で腹が少し膨れている。後片付けがすごく面倒だってことは分かっていたけれど、ニールの気持ち良さそうな顔を見ていたらつい外出ししてくれと言いそびれてしまっていた。むしろこれすらも愛しい。彼が適当に伸ばしている腕に頭を乗せてみると、重さに気づいたニールはこちらを見てから微笑んだ。なんて優しくて慈しみに満ちた表情なんだろう。僕みたいな人間にもそんな顔を向けてくれるのが嬉しい。彼の瞳には、もう僕を拒むような色は全く見えなかった。
「ごめん、無理させたな」
腕枕をしてくれている方の手で僕の頭をゆっくり撫でながら、ニールは申し訳なさそうに話しかけた。髪の毛を梳かれる感覚が心地好い。身体を傾けて、ニールのほうに近付いた。ぴっとりと肌がくっつく。
「初めてだったから余裕もなくてさ」
「ううん。……僕の方こそ、変な道に引きずっちゃって申し訳ないよ」
間を置いて応えたら、なんだよそれ、と言われてしまった。
「俺が自分から突っ込んだんだ、お前さんには何の非も無いからな」
「……そうやって逐一僕のことを庇ってくれる所、好きだよ、ニール」
彼は僕の全てを受け入れる広い心を持っている。弱いところも強いところも良いところも悪いところも、自分が飽和状態になった後であっても過不足なく拾って守ってくれるから、僕もそれを信じて彼には何でも曝してみようと思える。
「…明日もお仕事?」
「ああ、いつも通りな」
たるそうな声が返ってきた。今きっと凄く面倒臭そうな顔をしているはずだ。
「じゃあ少し寝た方がいいね、仕事に障るよ。こんなに狭かったら寝づらいでしょう。もう一枚敷こうか?奥にあるよ」
僕が精一杯に気を利かせて身体を起こそうとすると、ニールは僕の重力を支えていた腕を軽く引っ張った。バランスが崩れてぼふっとまた倒れる。驚いてニールを見たけど、彼は天井に顔を向けて目を開けていた。表情までは読み取れない。その横顔を見やると、鼻筋がすっきりと整っていて、滑らかな淡い輪郭線が彼と世界を分けているのが分かった。
「やーもういい。それよりアレルヤに離れられて寒くなるのが嫌だ」
ニールが口を尖らせたような口調で言うものだから、まるで子供みたい、と笑う。ねだり方が小さい子のそれだ。計算済みの行動だったら大したものだと思うけど、計算にしては自然過ぎて疑えない。
「…それなら、僕はもう寝るよ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい、ニール」
寝るのを邪魔しないためだろうか、ニールの手が僕の頭から離れた。何となく、それでいて急に淋しくなって、ニールの手を自分から掴んで頭に再び乗せた。そうするだけで落ち着く。何かに包まれていたかったのだ。もうお腹を壊すのは仕方が無い。今は正直言って睡眠欲のほうが理性を押しているし、僕がいつまでも起きていたらニールも寝なさそうだ。早く彼を寝せるためにも(という既成事実をでっちあげて)僕はぐずぐずに溶けてきた思考をわざと止めて瞳を閉じた。こんなに心が温かくて明けてほしくない夜も、生まれて初めてだった。









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