「やっぱり飲むの……?」
アレルヤは恐る恐る聞いた。ニールは可愛い可愛いアレルヤをライルに見られないように自分の部屋へ引っ張り込んだ。俺も混ぜろよ、という弟の言うことなんて知るものか。完全無視としけこんでやる。ベットの真っ白いシーツの上にアレルヤを座らせ、早速着ているシャツを脱がせはじめた。
「え、飲むけど。駄目か?」
事もなげにニールは応えて、あっという間にアレルヤからシャツやズボンを剥ぎ取った。アレルヤから特に抵抗をする気配は無い。それもそのはずで、小さい頃から裸を見られているので恥ずかしいという気持ちはこれっぽっちも無いのである。
「だって早く死んじゃうかも知れないんでしょう?ニール……僕としてはそんなことするのは気が引けるんだけど」
不安そうに見つめてくるアレルヤを安心させるように笑いながら、ニールは大丈夫だと言い切った。
「ライルも良いこと言ってくれたぜ。よく考えたら俺も長いこと生きてたからさ、なんか麻痺してたんだよな」
アレルヤの深緑に染まった髪の毛を耳にかけてやり、血が飲めるという嬉しさを抑え切れない様子で首筋を露わにさせる。色気立つなまめかしい曲線に思わず喉を鳴らした。ここから久しぶりの血を味わえる。アレルヤのものが身体に入ると考えただけでぞくりと興奮した。
「やべ、もう飲んでいい?」
「い、痛くない…かな」
ニールが見せた白い尖った牙を見て怖がるそぶりを見せた。そういえば昔から痛いのが嫌だったっけ。初めてアレルヤと性行為をした時も、あまりの痛さに泣き叫んで何度もやめようとしたような気がする。あれはアレルヤが精通した時で、本来受け入れないはずのところに挿入したんだからやむを得ないと言われればまあそうだが。と、都合の悪い所はうやむやにしておく。
「さあ、俺は噛み付かれたことが無いから分かんねえ。でも今まで飲ませてもらった奴らの反応は悪くなかったぜ。最終的には感じてたと思うけどなあ…」
「そう……まぁいいや。僕も実はちょっと吸ってほしかったんだ。どんな感じなんだろうって…羨ましかったよ」
アレルヤが照れながらニールの顔を指でなぞる。滑らかで絹のように綺麗な肌。
「じゃあ頂くぜ」
待ちきれないといわんばかりに、ニールは正座しているアレルヤの首筋に顔を寄せ、牙を動脈の近くへ導いた。そして噛み付く辺りを舌一通り嘗めあげ、少しずつ歯をきめ細かい肌に食い込ませた。ニールの熱い唇がぴとりと引っ付く。
「ぅわ、あ」
張りのある若々しい肌が侵食を妨げようとしたが、それも最終的には無力と化してしまった。ぶちりという鈍い音の後、いよいよアレルヤの首に牙が入り込んだ。
「いっ……!」
痛感が直接頭に響いて、アレルヤは顔を歪めた。しかし同時に何とも言えない嬉しさが込み上げてきた。ニールが僕の血を求めてくれている。中に招き入れようとしている。ニールの頭を愛おしそうに抱え込んで、痛いのを我慢してなすがままにさせた。じゅるりと音がして、ニールが血を飲んでいるのが分かる。舌を使って巧みに零さないようにしながら夢中で貪っている。見えないけれど、全身の血が肩に吸い寄せられるのを身体で感じた。心なしか、そこから熱が生まれている気がする。気持ちいい。全身から力が抜けていく。気がつけば痛みは無くなっていた。何度も頭の角度を変えながら嚥下するのが愛おしくて堪らない。
「ニール………ぁ…」
何分経っただろうか。ニールはやっと気が済んだらしく、ずるりと牙を抜き取った。すっかり顔に血の気が戻って健康そうな色を見せる。
「美味かったよアレルヤ。すこし苦かったけど、大人向けって味だった」
口元をわずかに血で染めながら、ニールは色気を含んだ視線でアレルヤを見た。絶対に大人の味じゃない。狼の汚れた血が入り込んでるからそうなっているだけなんだ。ぼうっとした目で見返して、アレルヤはニールの身体にもたれ掛かった。
「なんか、力が入らないよ…」
「ああ。大体飲まれた奴はそうなる。あとは女なら濡れたり、男だったら気持ち良くて勃ってたりするんだが……アレルヤはどうだ?」
ニールはニヤニヤしながらアレルヤの下半身を見た。アレルヤも目を下げると、確かに自分の性器は赤く色づいて勃起していた。全然気づかなかった。
「うわ、ちょっと…」
ニールがおもむろにそこを掴んで摩ってきた。にち、とリアルな音が聞こえてくる催淫効果に相まって、いつも以上にそこは敏感に反応した。直接的な快感が駆け巡る。
「や、駄目だってばっ」
「なんで?こんなになってるのに触ってあげない方が可哀相だぜ」
手淫だけでももう後少しでいきそうだ。なのにニールは乳首にまで愛撫し始めた。むず痒い感覚とやり場のない気持ち良さに、アレルヤはただ感じていた。ニールの頭を抱える腕に力が入る。
「ひゃ……あ、や」
「何?もっと強く潰してほしいのか?」
真っ赤に熟れた乳首を牙と下の歯で挟み込んでコリコリと動かし、真ん中を舌で擽るように押し潰した。
「あああっ、やだ、それっ」
「気持ちいいんだ…?アレルヤはエロいなあ、ちょっと噛んだだけでもうこんなにしてる。イイんだ」
そう、堪らないくらいに良い。アレルヤはうっすらと涙を浮かべながら、きちんと刺激されない性器をニールの股間に押し付けた。先走りが付いて、布に擦れただけでひくりと震える。
「しょうがねえな……」
乳首を口から離して、ニールは決定的な刺激を与えないままシーツへアレルヤを押し倒した。かちゃ、と自分のベルトを外してズボンを降ろし、自身を下着から取り出す。ニールもいくらかは反応していて、すこし扱いて勃起させながらアレルヤに見せ付けた。アレルヤはニールのペニスを見ただけで喉をひくりと動かした。あれが僕の中に入るんだ、あんなに大きいのが。
「いきたいだろ?」
「う、ん…ニール、もう触って……?」
蕩けるような瞳でつたなく言葉を編み出す。もう自然と男を誘う術を身につけているアレルヤは、耳をへにゃりと下げて腰を揺らめかせながら待つ。性器もそれにあわせて媚びるように震えた。
「だめ。触ったらすぐいくだろ。俺のと一緒にいってもらわなきゃな」
ニールは首元を緩めて、アレルヤの性器の根本を指できつく締めた。
「あっ、痛い……っ」
一番鈍い所をがっちりと押さえられ、それでもアレルヤは期待から先走りをだらだらと零し続けていた。はやく欲しい。ニールはそれを一瞥しながら、解さないままアレルヤの秘孔に己のペニスを宛がった。
「挿れるからな………挿れた瞬間に達くなんてことはゆるさねえよ」
妖しい目線を送り付け、ぺろりと舌なめずりした。その淫猥さにアレルヤはぞくりと背筋を震わせる。
「あ、ニール、早く……」
「よし、いくぜ」
興奮を滲ませた声を出し、ニールが挿入を始めた。じわじわと先端が自分の中に入っていくのが締め付けでよく分かる。慣らすことなく入れるからなおさらだ。
「っあ………」
アレルヤは侵食される快感に声を上げた。ずるずると大きいニールのペニスが入ってくる。一つになれる。全てを収めきると、ニールはゆっくりと息を吐いた。
「きつ…。やっぱ狭いな…」
「ニールがそうしたんじゃないか…。ね、それより早く」
茶色い尾っぽがニールの尻をぺちぺちと柔らかく叩いた。はやく動かしていかせてほしいといわんばかりだ。ニールは思わず苦笑する。アレルヤに促されるままにゆっくりと動いた。まだアレルヤの性器は妨げられたまま、苦しそうに張り詰めていた。
「あ、………離して、ニール」
「勝手にいくなよ?」
「分かってる、から……!あっ」
渋々手から解放して、アレルヤの太ももを持ち上げて中に深く入れ込んだ。根本まで深々と突き刺さって、更なる快感を生み出していく。
「あ、っ気持ちいい、ニール……」
「すげえ締め付け、アレルヤ」
我慢できなくて、徐々に腰を動かす速度を速めた。こそぐように出し入れする感覚に、アレルヤも追い上げられる。二人とも息を上げながら、ただ本能のままに欲望を打ち付けあった。
「いきたい、っあっ」
「まだもうちょい、いけるって」
完全に二人は我を忘れていた。始めて血を吸えた、吸われたという喜び、一つになれたという喜び、それが二人の心を支配して歯止めがきかなくなっていた。だからある異変が起こりはじめた事に対しても、気づくのはかなり取り留めもつかない状況までいってからだった。まずそれに気付いたのはニールだった。アレルヤの身体がさっきよりも黒くなりはじめたような気がしたのだ。最初は目が眩んでそう見えただけだと思っていたが、時間が経つごとにどんどん黒くなるのを見るとそうではなかった。
「アレルヤ………?」
「え、どうしたの、ニー………ッ!」
そして怪訝そうな顔をしてニールの名前を呼ぼうとしたアレルヤが固まった。アレルヤはそこでようやく何が始まり出したのかが分かったのだ。ニールが持ち上げていたアレルヤの太ももから、湧き出るように長い毛が生えはじめて人の肌から瞬く間に毛皮のような感触へと変わる。
「うわ、やっべえ!」
ニールは慌ててアレルヤの中から自身を引き抜こうとしたが、急な肉体の変貌によって思うようにうまくいかない。その間もアレルヤは半獣へと進化する。狼の耳が生えたところから物凄いスピードでアレルヤの顔へと侵食し、細い切れ長の目が獣のそれへになった。手からは鋭い爪が生え、腕、足、腹全てが狼の毛で覆われた。
「ガ……ッ」
声も人間の声ではなくなっていた。もはやアレルヤだと分かる箇所は殆どない。しかし下半身だけはしっかりとニールを捕らえていた。
「うわああっ」
ニールは焦った。このまま自身が使い物にならなくなったらどうしよう。つーか今日は満月だったのか!アレルヤそれ言えよ!何で言わなかったんだよ!こうなるって分かるだろどうかんがえても!いやとりあえず落ち着け、落ち着け俺。そうだ、大丈夫だアレルヤはまだ正気を保っているはずだ。すこし混乱して暴れようとしてるのは知らない。まずこんなところを弟に見られたら笑い者じゃすまされない。とんだ変態趣向の人間、いや吸血鬼だと思われる。それだけじゃ済まない。きっとドン引きされて縁を切られたり……駄目だ。そんなのは嫌だ。とりあえず言葉は通じないがジェスチャーで隠れるよう指示しよう。え!?隠れるってどうジェスチャーすんだよ!相手は狼だぞ!無理だろ!

その時、決して起こるべきではない更に悪い事態が起きた。階段を誰かが上って来る音がしたのだ。ニールはひやりと汗が背中を流れるのを感じた。誰だ、いやライルに決まってんだろ。足音が虚しくもニールの部屋の前で止まる。来るなよ、俺の部屋にだけは……。絶対…絶対入るなよ……!
「兄さん、ティエリアが忘れ物って」
コンコン、とニールの部屋のドアをノックするライル。本格的に暴れ始めた狼。ニールは出来るだけ平静を装った声で対応した。
「お、おお、そこに置いといてくれ」
「え、なんでだよ取りに来いよ」
「ほら、俺今手が開いてないからさ!」
「あぁ?」
ライルがドア越しに変な声を出した。
「もしかしてアレルヤと…」
「そそそうなんだよ向こう行け!」
「いいじゃねえか!俺も混ぜろよ!」
ああ、前に一度だけでもいいから三人でやっとくんだった。ニールは一生の中でこんなに後悔したことはなかった。しかしその後悔を知ってか知らずか、ガチャリと勢いよくライルが部屋に足を踏み入れた。そして瞬間ニールを見た。すすす、と視線が下がって見えますのは毛むくじゃらの、
「に、兄さん………」
「違うんだたまたまなんだ!知らなかったんだよ今日が満月だったなん」
「いや、遠慮しないでくれ。俺は偏見は持たないんだ。大丈夫だ…うん、こういう趣味だってあるもんな。平気だぜ、自分の兄が獣姦してたっ、て……。じゃあ、ごゆっくり…」
パタン。まるで世界を悟ってしまったかのような瞳をニールに注ぎながら、ライルは今までの中でいちばん優しい笑みを残して去っていった。







広い屋敷に、ニールの悲鳴と狼の遠吠えが響き渡った。







(終)

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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