「うわ、すげえ!」
食堂に入ると、ニールは思わず大きな声を上げた。これでもかと言うほどの豪華な手料理が、真っ白なテーブルクロスを掛けた長いテーブルに並べてあったのだ。コーンとチーズのロシアン風ポタージュスープに一等豚の丸焼き、大きなオートミールの鍋にくり抜いた南瓜の皮を器にしたホワイトクリームグラタン。デザートには山盛りに積まれたお化け型のクッキーに糖蜜パイ、チョコレートフォンデュ。内容こそ一般的だったが、盛り付けにすらセンスを感じる。ニールは上座にある椅子に腰掛けて、すっかり感服した眼差しでアレルヤを見た。
「よくこれだけ作ったなあ。材料集めるのだけでも大変だっただろ?」
「ううん、ライルがずっと前に買い出しに行ってくれてたから」
アレルヤもニールの近くの席に付いて、満足げに料理を見遣る。自分が出かけている間にかいがいしく厨房で料理するアレルヤを想像して笑みを浮かべた。
「あ、そういやライルは?」
「さあ…。たしか昨日も遅かったから、まだ寝てるんじゃないかなあ……」
天井を見上げて、分からないといった風に肩を竦めた。二階には寝室や書斎があり、三人のために一つずつ部屋が宛がわれている。ライルは昼も夜も不規則に行動しているからいつ寝ているのか誰にも分からないのだ。本来日光に弱いという吸血鬼の特性をやすやすと乗り越えているからなせる業なのだが。
「もう随分いい歳なのにあいつもなかなか身が引き締まらねえなあ」
「いつまでも無邪気だよね」
「悪く言えば餓鬼だ。よし、ハロ!」
手を叩いて相棒を呼び出した。途端にどこからともなく、一匹の蝙蝠がニールの目の前に飛び降りてくる。黄褐色の異種で仲間と馴染めないこの蝙蝠に名前を付けて、小さい頃から相棒と名付け親しんでいる。
「ちょっとライルのところに行ってきてくれ。多分まだ寝てるはずだからさ、噛み付いてでも起こしてこい」
けしかけると、ハロは了解と言わんばかりに羽をばたつかせて飛んで行った。一生懸命に任務を果たすハロが可愛らしい。階段の上をパタパタと行くそれを見送って、ニールは事もなげに耳を掻く。
「よし、じゃあ待つか」
「ライル……ハロで起きるかな?」
心配そうにアレルヤが呟くと、ニールは意地悪く眉を上げて答えた。明らかに面白がっている顔だ。あなたも十分無邪気だよ、と言おうとしたが、むくれそうだったのでアレルヤは黙っておいた。
「すぐ来るさ。ハロの牙はよく尖ってるからな。絶対目が覚めるんだ」
その言葉はどうやら本当だった。ニールがハロを行かせてからわずか一分も経つか経たないかのうちに、天井からぎゃっと高い悲鳴が聞こえてきた。そして数分後、ぼさぼさの髪の毛を掻きむしりながらぶすっとした顔でライルが食堂に現れた。昨晩そのまま寝たのだろう、よれたシャツは釦が全部外れていて白い肌が丸見えで、ズボンもベルトが抜けて緩んでいる。衛生ではないが妙な色気を放っていて、アレルヤはちょっとだけ目を反らした。
「あ、お前また女ひっかけたな」
そんなことは露知らず、嗅覚の鋭いニールが眉をしかめて迷惑そうに言う。
「それに一人じゃないな、色んな匂いがする。香水の匂いで鼻がもげそうだ」
「いいじゃんか、難いこと言うなって」
あからさまに面倒臭そうな顔をした。夜から説教を喰らう気は無いらしい。
「血を飲んだらやりたくなるだろ。生理的な欲求だって。兄さんなんか吸ってなくてもしょっちゅうアレルヤに盛って部屋であんあん言わせてんじゃねえか、知ってんだからな。俺だって食べたいのに妬きもちでセッ」
「うわああぁぁやめてくれ!」
頭から湯気が出るくらいに赤くなったアレルヤがそれ以上の暴言を阻止する。
「そういう話は!ねっ」
ライルはアレルヤの慌てっぷりを見て分かったよと言い、どっかりと席に着く。ニールも少し決まりが悪そうな顔をしながら仕切り直しと言わんばかりに三人のグラスに赤ワインを注いだ。
「よし、じゃあ食うか」
ボトルをテーブルに置いて、なみなみと注がれたグラスを持ち上げる。アレルヤもライルもそれに従った。
「乾杯っ」
キン、と小気味良い音が食堂に広がった。ハロウィンの宴の始まりだ。







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