ある男が、真っ暗な外から屋敷へと帰ってきた。仰々しくて馬鹿でかい木製のドアをギイ…と大きな音を立てて開き、大理石の上をコツコツと靴の音を響かせながら中に入る。
「ただいまー」
豊かな茶色の髪の毛に覆われた頭をもたげながら少し弱い声を出した。広いエントランスホールには他に物音をたてる者がいないので、その小さな声でも十分によく響く。入口に飾られている美しい花々が蝋燭のシャンデリアの明かりで十分に照らされ、なんとも言いようのない優雅さを生み出していた。ゴシック洋式でありつつも、豪華絢爛で口説い訳ではないインテリアが主人の帰りを静かに迎える。男は玄関の近くで立ち止まり、欠伸をしながら使用人が来るのを待った。この屋敷は元々家族五人で住んでいたが、両親と妹を亡くした今ではそこに三人で暮らしている。一人は自分と血を分けた兄弟であり、もう一人は身無し子である。その身無し子が使用人。玄関の音を聞き付けて、間もなく一人の青年が早足でこちらに駆けてきた。
「ニール、お帰りなさい」
男の深い黒色のマントを脱がせながらにっこりと微笑えむ。彼はアレルヤという名前で、狼の血を身体に宿す、つまるところ狼人間である。アレルヤは幼い頃に狼人間にに襲われ、死にかけていた所をニールに助けられた。しかし身寄りがないために、身の回りの世話をするという名目でこの屋敷に住み着くようになったのだ。
「おはよう。夜なのにお疲れ様」
ズボンから出した尻尾を嬉しそうにゆらゆらと揺らめかせながら、アレルヤはニールのマントを畳んで腕にかけた。
「ティエリアは元気だったかい?」
「元気もなにも、病気にかからない身体だからなああいつは。いつも通りにたっぷり血を持ってかれて貧血寸前だぜ」
ニールがアレルヤの頭に生えている狼の耳の後ろを掻いてやりながらため息をついた。首元のシャツの釦を幾つか外す。
「ふふ、吸血鬼も貧血を起こすんだね」
気持ち良さそうに耳を垂らした。
「当ったり前だろ。大体俺低血圧なんだからな。…お、なんか良い匂いがすんじゃねえか。ご馳走でも作ったのか?」
「うん。今日はハロウィンでしょう?」
「ハロウィンてお前…あれは俺達を追っ払う縁起でもない祭りだって」
「でも楽しそうじゃないか。人間ばっかりずるい、化け物だって祝う権利はあるよ。腕によりをかけて作ったから口に合うと良いな」
そう言ってアレルヤは尻尾を振った。感情が表に出やすいので気持ちがよく分かる。料理には自信があるようだ。
「俺はお前の方が食べたいんだけど?」
ニールは下世話ににやりと笑い、腰に手を回しを抱き寄せる。アレルヤは視線を泳がせて顔をほんのりと染めた。
「だ、駄目だよ…。僕の血は飲めないのも同然だって知ってるくせに」
「そういう意味じゃないって知ってるくせに、なあアレルヤ?」
「うぅ……」
「ったく、かわいいなあお前…マジで食っちまいたい。純粋な人間だったら絶対放っときゃしないんだが……」
まあそうは言っても、流石に玄関で手を出すほどに道徳を失っているわけではない。ニールは腕を解いてアレルヤを解放し、後に続いて食堂へと向かった。







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