ごく自然な流れだったのは明らかだ。今日もニールはアレルヤの家に上がり込み、夜酒としけこんでいた。このところ幸せな日々が毎日続いている。平日は銭湯で最後の客を二人で見送った後にその場に残って時間を過ごし、日曜には週に一回の割合で酒を各々の家に持ち寄って、まどろんだ空気のもとで一緒に夜を過ごしていた。今日はその日曜日だ。いつもなら、3時間程経つとニールが先にうとうとし始め、それに気づくアレルヤが彼に布団をかけて、飲んだ後片付けをしてから自身も隣に丸まる。彼が寝ぼけているのか分からないような仕草でアレルヤに腕を回して一緒に温まり、穏やかな眠りにつく。二人にとって、これが常であり至福のひと時だった。……しかしこの日常が一ヶ月も経つか経たないか位の今晩、二人の間にはささやかなむず痒い配慮とぶれた雰囲気が流れ始めていた。あまり積極的には話そうとしなかった色話になってしまったからだ。以前から興味がないわけではない、どちらかといえば知りたい。好奇心が心の奥底からむくりと鎌首をもたげた。どちらも何も言わないが、もはやこの流れを無理やり断ち切るにもいかないしむしろ良い機会じゃないか、とニールは思った。聞くなら今だ。考えていることは同じだろうなとは薄々感じていたのだ。
「アレルヤって…男と付き合ったこととかはないのか?」
酒の勢いで入ってしまった話題。おかげでわずかに止まった会話を再開する。
「えっと、一人だけ…」
アレルヤはガラスに入った酎ハイを揺らしながら答えた。角度を変える度にきらきらと反射して、中にあるきめ細かい泡粒がいくつか天井に上るのを見た。僅かに声が固い。
「やっぱ男だよな」
「えっ…うん。そうだけど」
「何ヶ月続いたんだ?」
「大体二年間くらいかなあ」
「二年!?おいおい長えなあそれ」
自分なんて一ヶ月も続けば良い方だ。とはいえ、相手が満足げでもこちらが痺れを切らすから、続かない原因は圧倒的に自分にあるのだが。
「そうかなあ……でもニールは確かに取っ替え引っ替えしてそうな……」
「ええっ!?」
「嘘だよ」
楽しそうに笑われてしまった。
「むしろ逆。彼女を大事にしてそう。羨ましいよ、ニールを彼氏だって堂々と言える彼女さん達が。僕もいいたい」
「からかうなって」
「ふふ、ご無礼」
今日のアレルヤは何だか饒舌だ。酒がよく回っているのだろうか、言葉に舌足らずな印象を受けるしよく笑う。それが可愛くてニールも少し口元を歪めた。
「でも妬けるな…なんか」
「どうして?ニールはやきもち妬き?」
「そんなに強い方じゃないんだけどな。でもアレルヤの元彼とやらが俺よりお前のことを知ってると思うと悔しいよ」
「僕のことなんて。大した人生を送ってきていないからろくなものじゃないし」
「でも少なくとも俺よりは知ってる」
じっとアレルヤを見つめながらいうと、その言葉を聞いたアレルヤは瞬きして俺の方を見据えた。視線が絡む。
「何だか酔ってる?ニール」
「ああ、そうかもな……」
言ってからまた一口飲んだ。ちっとも温くならないビールが喉を潤す振りをした。酔ってるのは俺なのか。
「アレルヤはセックスしたこと有るか?」
「え」
「女でも男でも、どっちでもいいぜ」
急な問いにアレルヤは変な顔をした。
「どっちでもって。僕はゲイだっていってるじゃないか…女の人には欲情しない、ていうかできない」
「じゃ、男で。あるのか?」
「………あるよ」
「何回くらい?」
「そ、そんなことまで聞くの」
「付き合ってるからな」
からかっておいて自分で反芻した。付き合ってるから、か。一体どっちが彼女でどっちが彼氏なんだか。可愛い分アレルヤが彼女なのか。それとも逞しい分アレルヤが彼氏なのか。付き合ってるからなんて理由の端くれにも劣るがそれでも。
「冤罪符ってわけかい」
「そう」
で、何回なんだ。催促するとアレルヤはとても困ったように眉を下げた。
「わかんないよ。数えたことがないし」
それはそうかもしれないと納得し、自分が予想した通りの反応で安心した。まあこの気弱なアレルヤのことだ、数えるような回数はこなさない。
「じゃあニールはどれくらいしてきたの?それこそなんだか多そうだね」
「んー…まあ週に一回ぐらいかな」
「え、そうなんだ…」
しかしアレルヤは意外そうな顔をした。ニールの割には少ないと思われたのか、それとも多いと思われたのか。
「もっと多いかなって思ってた。僕はそんな頻度なんて覚えてないし」
「だよな。少なそうだ、アレルヤは」
「え、そういう意味じゃないよ」
からからと氷の音をたてながら一口飲んで、明らかに申し訳なさそうなそぶりを見せた。何故そんな顔をするのか。この寒い中氷なんて入れなくてもいいだろうに、いやそんなことではなくて。ニールは思わずアレルヤを見つめた。
「多すぎていちいち覚えてないんだ」
そういって、アレルヤは微笑んだ。








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