きっと、もう愛想をつかされてしまったんだと思った。いきなり押し倒して男に襲い掛かるような、けがわらしくておぞましい人間には関わる価値すらないと思われたんだ。アレルヤあの夜、最後にあの言葉だけを置いてから一目散にニールの家を飛び出した。彼が呼び止めたような気がしたが構わず外に出た。なりふり構っていられなかった。半分やけくそだった。飛び出した後も走り続けて、意識を霞ませるくらいにむちゃくちゃに身体を動かした。脳に考えさせる余裕を与えたくなくて、出来るだけめいっぱい息をした。急激な温度変化に体が悲鳴を上げて、目から生理的な涙が出た。視界がぶれる。このままなにもかもぼやけてきえて、なくなってしまえばいいのに。今まで起きたことがぜんぶ嘘だったら、ぜんぶ夢だったら。目が覚めたらそこはニールの部屋で、机の上で突っ伏して寝ていただけだったら。走りつつ心の底からそう思ったが、冬の空はまるでそれを嘲笑うかのように、綺麗で曇り一つ無い世界を広々とアレルヤに見せ付けていた。大好きな寒空でさえも、苦痛以外の何物でもなかった。








そしてあれから三日が過ぎた。
あの最悪な事が起きた後も、ニールは毎日銭湯に足を運んでいた。前と同じように11時過ぎに来て、他のお客と喋りながら湯を楽しんでいる。アレルヤへの態度もほとんど変わらなかったが、以前のように気軽に話しかけてくれるようなことは無くなり、来た時と帰る時に軽く挨拶をするだけになった。そして彼はアレルヤとはなるべく視線を交わすことのないように振る舞っているようだった。無理もない。いきなり自分を襲ってきた相手に普通に振る舞えと言うほうがおかしい。アレルヤはそれでも十分だった。まず銭湯に来てくれるだけでも嬉しいし、もうこれから彼と親しくなる機会は無いに違いないが、余計な気を回させてしまうよりかはよっぽどましだ。お客と番台という立ち位置だけで区切られた関係は、友達でいるよりもずっと単純で扱いやすかった。元々はこうだったはずだし、これからもこうやってお互いに生温く過ごしていけばいいだけの話だ。何も気にする必要は無い。そう自分に言い聞かせた。あの夜のキスのことだって儲けものだったと思い出にして、はやく古ぼけさせてしまえばいい。好きな気持ちだって、叶うことが絶対に無いと分かれば次第にしぼんでいってしまうだろう。今までもそうだった。ニールだって何事もないかのように精一杯過ごしているんだ。こちらだけ引きずっていては申し訳ないじゃないか。今まで通りにやっていこう。それがニールに、…………いや、ニールさんに対するせめてもの償いだ。






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