両頬を手で優しく包み込みながら、生まれて初めてみずから口づけをした。薄い割には柔らかいニールの唇の感触を味わい、アレルヤは目を閉じる。終わった。もう元には戻らない、戻れない、もう戻りたくない。引き下がらなくてもよくなった自分に我慢できなくなって、ニールの上唇と下唇の間にずるりと舌を滑らせた。違和感のある唾液の味で、ニールはやっと現実で何が起きたのかが分かったらしく、アレルヤの両手を掴んで抵抗しようとした。
「……っん………」
しかしその努力も虚しく、それどころかアレルヤに全体重をかけられて背中を畳に打ち付けた。冷たい激痛が身体を駆け巡る。その痛みに耐えると同時に力がゆるんで、アレルヤの太めの舌が歯の間を割り込んで咥内に侵入した。ぬるりといやらしく舌が咥内を這う。夢中で逃げるニールの舌を追い、無理やり捕らえて互いを擦り合わせる。その感覚が気持ちよくて、アレルヤはうっとりと目を細めながら振りほどかれてもなおも絡めた。ちゅく、ちゅ、と角度を変えては何度もそれを繰り返して堪能する。唾液が零れて口元を伝ってゆく。
「んんっ……ふ、……っ」
ニールはこんなにも濃厚な接吻をしたことがなかった。息の仕方すら分からない。鼻で酸素を求めるも、その余裕さえ与えないほどに激しい。まさかアレルヤがこんなテクニックをもっているだなんて。酸素の欠乏で脳が痺れてきた…限界が近い。ニールは渾身の力を振り絞って、アレルヤの顔を引きはがした。
「…………っは、……は…」
やっとアレルヤの口づけから解放され、互いの荒い息が近距離で重なり合った。吐く息が白くて、何がなんだかわからなくなりそうになる。アレルヤはニールに馬乗りになって畳に両肘をつけたまま、口元から垂れたどちらのとも分からない唾液を拭いもせずに今にも泣きそうな顔になった。くしゃくしゃだ。ニールは呆然としてその様子をただ眺めているだけだった。声が震えている。
「……きもち、わるいで…しょう。……僕はゲイなんだよ、ニール」
「…アレ……」
ニールは息をのんだ。まさか…。
「男の人にしか欲情できないんだ。あなたは大丈夫だと言ったけど、きっとこんな僕をあなたは受け止めてくれない。受け止めてくれたとしても拒否するんだ」
「ア……レル…」
「でも見て。あなたがこんなにも恐れおののいてるっていうのに、僕はほら…」
「………っ!」
そういうと、アレルヤはニールの右手をそっと掴んで自分の股間に押し付けるようにあてがった。そこはもうかなり固く張り詰めていて、勃起しているのがすぐに分かった。ニールはなすがままにされ、ただ名前を呼ぶことしかできない。思考が完全に停まっている。
「こんなに興奮してるんだ。今だってニールの手で自慰できそうなくらいに」
「アレルヤ……」
ニールはアレルヤの目の輪郭がぼやけていくのを見つめた。
「今まで頑張って誰にでも隠し通せてきた。僕がある程度のところで自分を守ってきたから。なのにニールはそれを突き破ってきたんだ。この前の飲み会の時だってそう。自分の家に好きな人が入ってきても、常に一線を越えないように我慢してたんだ。それでもニールは僕を布団に倒した。死ぬかと思った。あの時だって、もしニールが起きていたら逆に押し倒してたかも知れない」
「…………アレル」
「だけどもう限界だった。女の人の話になるたびに話を打ち切ってみたりしたけど、どうしてもここに行き着いてしまった」
喋りつづけた。話さないとそれこそ死にそうだった。一言話し出した瞬間にたくさんの感情が一気に溢れ出てきて出すしかなくなった。もはや何を話しているのかも分かっていない。ただ口を開けたら言葉がぼろぼろ出てくる、それを抑える術なんて知らない。気づけば、口だけでなく目からも溢れ出していた。なにもかも排出するこの顔が醜くなって、両手を畳から離し顔を覆った。手が痛い。頭も痛い。感情も痛い。





「…………ごめんなさい、ニール。いっぱい仲良くしてくれたのに、あなたの親切を全部踏みにじってしまって。だからもう優しくしなくて良いよ」








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