「………勘弁、してくれ」
ぼそりと呟いた。恐ろしいくらい声が掠れてしまっていた。でもそんなのどうでもいい。もうこちらが本当のことを言うしかないのだ。嫌だ、と試しに言ってみようか、答えたくない、そのことについては何も触れないでくれ、と。もしかしたらニールは分かったと言ってくれるかもしれない。だけどそれまでだろう。せっかく酒に誘ったのに腹を割らない人と飲んでも仕方がない。
「………自分を守るのは慣れてないんだ」
これから誘ってくれることはもうなくなるに違いない。じゃあ本当のことを正直に話そうか。そんなことをしたら気持ち悪がられて、もう話し掛けてくれなくなるかもしれない。だけど気負わずにこれから会うことはできる。どんなに巧みに嘘を言おうと無駄だと分かっているなら、もう言ってしまえばいいじゃないか。言わずに避けられるより、言って避けられるほうがましだ。机越しにニールを見た。彼もアレルヤがどんな表情をしているのかを探るようにこちらを見た。頭が痛い。ずきずきする。酔いが回ってきた。もう何も考えたくない。
「ちょっとハイペースで飲み過ぎたんじゃないか?アレルヤ……」
軽く頭を押さえたのをニールは見逃さず、立ち上がって机を回り、アレルヤに近寄った。この空気を何とかしたかったからそうしたのかもしれないが、それは確実にアレルヤとの距離を縮めた。アレルヤは正座したまま身動きせずにそれを眺めた。こんな微妙な時まで心配してくれるんだ。頭の隅で誰かが言った。親切だよね、ニールは。こんなにいい人にもっと心配をかけるようなことをしちゃ駄目だよ。本当のことを言おう、アレルヤ。もうどうなってもいいじゃないか。
「アレルヤ大丈夫か?きついのか?」
ニールはさっきまでの質問攻めをやめたらしい。何によるものか分からない少しぼうっとしたアレルヤの様子を見て、その場に屈むと額をぺちぺちと叩いてきた。
「………あのね、ニール」
「ん?どうしたんだ、アレルヤ」
優しい声で答えてくれた。酔っ払っていると思われたらしく(実際酔っているが)、よっこらしょ、と言ってその場にニールも座る。アレルヤは目の前にいるニールを間近でじっと見つめた。彼もまた酔っていないわけではないようで、頬が赤くなっていた。前も赤くなっていたから、酔ったらここに出るんだなと思った。あのね、と言ってみたはいいものの、まだ何と言えばいいのかを決めていなくて口をつぐんだ。
「言いたいことは言っていいぜ。なんでも聞いてやるからさ」
ニールは薄く笑ってアレルヤに機会を与えた。あとはお前さん次第だとでもいうように。でももう何も考えたくない。頭が真っ白だ。
「…………なんでも?」
「そのための飲み会だろ。まだ二回目だけど、仲良くなりたくて誘ってるんだ、今更かたくなるなよ」
「………受け止めてくれるれるのかい?」
「おう、任せとけって」
頭が回らなくなった。自分でもこんなに意味が分からないのに、それを受け止めてくれるのか。二目惚れした。アレルヤは僅かに身体が熱くなっているのを感じながら、ニールの両頬を手で触れた。ニールが目を少し丸くした。ああ、受け止めはしても、それを許容するのか拒否するのかは別問題なんだった。どうやらそんなことすら分からなくなってるみたいだ。もう何も考えたくない。
「アレルヤ」
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」
何が、とは聞けなかった。聞こうとしたニールの口が、アレルヤのキスによって塞がれていた。







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