「そういえばさ、聞いたぜ」
前の飲み会のように、お酒を飲みつつ話をだらだらと続けること一時間。話の種が尽きずに楽しく笑いながら飲んでいると、ニールがビールの3本目を飲み干してから言った。結構なハイペースで飲み続けている。アレルヤもこの前よりかはかなり酒の量が増えた。なんせニールの家で飲んで緊張しているので、和らげるためにあえて多めに飲んでいるのだ。
「おまえさん、結構もてるんだって?」
「えっ」
しまった。アレルヤは心の中で舌打ちした。あまり恋愛の話を振られないように隠してはいたのだが、ついにばれてしまったようだ。なぜだろうか。
「おやっさんが言ってたぜ。アレルヤから贈り物のおすそ分けをよくもらったって。本当か?それ」
イアンさん…余計なことを言ってくれたなあ。まああの人も僕の性癖を知らないから、ニールからアレルヤに合う女の子を紹介してもらえたらいいんじゃないか位の考えで言ったんだろう。
「まあ、そうだね……」
「でも付き合ったことはねえんだろ?なんでだよ。一回くらい女を抱きしめたいと思ったことはないのか?」
少し話が下の方にいきそうな気がして、冷や汗が流れた。女の人を抱きしめたいと思ったことはないけど、男の人に抱きしめられたいと思ったことならいくらでもある。
「ないかなあ。考えたこともないよ」
とりあえず微笑んで、この雰囲気を流してしまおう。そして話を違う方向へもっていくしかない。アレルヤはどうしても安直な嘘をニールにつきたくはなかった。だからわずかに話が進まなくなるような返答をした。しかしニールはこの返答にますます疑問を持ったようだった。眉をわずかに反らせてアレルヤを見る。その目つきで何もかもが暴かれるような気持ちがして、思わず視線をそらした。ここで決してそらすべきではなかったと、シラフのアレルヤだったら冷静に考えられたかもしれない。だが緊張を紛らわすための酒がその思考を妨げた。ニールは四本目を開け、一口飲んでから問いつづけた。
「なんで?普通の男だったらやましいことの一つや二つは考えるだろ。考えないのなんて坊さんかよっぽど枯れたじじいくらいしかいねえよ」
「……そうかもしれないね…でも本当にあんまり女の人のことを考えたことはないんだよ。変かもしれないけど」
「嘘だね」
軽く一蹴されてしまった。どんどん逃げ道がなくなっていく。ただでさえ狭い穴に入り込む余地すらなくなっていく。自分がもう少し上手に嘘をつくことができたらこんなことにはならなかったのに、と意味がわからない後悔をしつつ、手に握られたアルミ缶を見つめた。
「……うん、やましいこと、みたいなのは考えたこと…あるよ」
ああ言ってしまった。これでまた矛盾が生まれてしまう。焦ってきた。
「じゃあなんで。…………もしかして」
ニールは言いかけて、その後少し黙り込んだ。いうか言わないでおくかを迷っているようだった。ばれてしまったのだろうか。さっきまでの楽しい会話はどこへやら、一気に淀んだ空気をニールとアレルヤを包んでいる。いや包まれているのはアレルヤだけかもしれない。彼はいたって純正な質問をしているのだから。
「もしかして………」
「………」
「………………………勃たないのか?」
「ち、違うよ!!!」
突飛な問いかけについ大声を出してしまった。男として、使い物にならないと考えられるのはかなりの屈辱だ。本当の不感症の人には申し訳ないが、そうだとは絶対に思われたくない。
「うん、それは本当みたいだな。そういう目をしてる。じゃあどうしてなんだ?」
「……ニールは、どうして僕にそんな質問をしてくるの?」
「別にたいしたことないよ、興味本位」
あまりにも即答なので質問したこちらが怯んだ。それはそうだろう。男だけの飲み会ならいつかは下の話になる。
どうすればいいんだ。今度はアレルヤが黙り込む番だった。ちゃんと考えて話したいが、多めの酒を入れた自分を激しく後悔した。思考がぼんやりする、組み立てられない。女の子に欲を感じないことも、だけど違うことでは勃つということも知られてしまった。嘘はばれるしつきたくない。考えても、ぐるぐるぐるぐる、と頭の中で形にならない渦巻いたものがまわるだけだ。何も生み出せない。どうしよう、どうしよう、何かいわなきゃ、きっと今ニールはしっくりくる答えを求めているし、こなければまた質問してくるはずだ。アレルヤはいつの間にか俯いて目を見開いていた。めり、とアルミ缶が音を立てた。




「……………アレルヤ?」







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