今日は日曜日。週末である上、最近はいよいよ本格的に冷え込んできたので銭湯にはお客さんが非常に多く来ていた。がやがやとひしめき合う笑い声や人々の熱が、銭湯をより賑やかしている。アレルヤはタオルを補充しに浴場へ走ったり木札のために番台によじ登ったり、あちらこちらに飛び回ってはあくせく働いていた。まだ6時すぎだというのにもうこんな状態だ。毎年この時期になるとお手伝いさんを期間限定で雇うかどうか考えるのだが、結局いつも一人で全てをこなしている。体力にだけは自信があるのでどうしても無理をしてしまうのだ。これが9時過ぎ辺りになると、飲みに行ったり家に帰って明日から始まる一週間のために早く休む人が一気にはけるので楽になる。アレルヤは、もうひとがんばりだと自分に言い聞かせて、その休憩だけを頼りに一生懸命動いていた。というより、その休息の後にやって来るお客さんと会話できることだけを頼りに、と言った方が正確かもしれない。





「よお、アレルヤ」
ニールは今日も11時過ぎに来た。彼も寒さに堪えられなかったのか、Vネックのセーターの上に一枚厚手の上着を羽織っていた。ただ来ているだけなのに妙に様になっていて、かっこいい人は本当に得だなあとしみじみと思った。
「こんばんは。今日はまた一段と寒いね」
飲みかけていた水筒を番台の隅に押しやって、木札を取り出す。今日はたくさんお客さんが来たから湿っていない木札は見つけ出せなくて、濡れててすみませんと言いながらその中から一つを渡した。
「どうも。今日はまた一段と忙しかったらしいな、アレルヤ。糸屑ついてるぞ」
湯代を渡しながら、ニールは自分の頭の耳あたりを指差した。アレルヤは恥ずかしくなってすぐに耳元を払う。これくらいで焦る必要は全くないのに、彼の前だと妙に意識してしまう。刹那から変だと言われてから、以前より若干自分の外見や動作に関して過敏になっていた。何ともぎこちない。
「ありがとう。大分少なくなったから快適だと思うよ。日曜日の夜だしね」
「そうか。てことは、今日は時間ある?」
「えっうん。多分ニールが最後じゃないかな……。いつも最後に来てる人が今さっき入ってきたから…」
それを聞くと、ニールは嬉しそうにして番台に寄り掛かった。なんて親近感溢れる態度なんだろう。僕にはできない。
「じゃあさ、銭湯を閉めたら飲もうぜ。今日は俺ん家でいいからさ」
事もなげにニールが言ったので、アレルヤはその言葉をちゃんと飲み込むことができなかった。
「また誘ってくれるの?ありが……え?」
「俺ん家。別にここから遠い距離でも無いし、酒を置いて来ちまったからさ」
「ニ、ニールの家!?そんな…」
「どうした、俺ん家だと嫌なのか?」
そんな訳無い。むしろ上がりたいくらいだ。アレルヤはぐるぐると考えた。でもどうしよう、動揺してまた刹那みたいに挙動不審だと思われないだろうか。しかももしかしてじゃあ、じゃあ今日はニールの家に泊まるってこと!?そんな駄目だよ、第一僕心の準備が全然………!
「アレルヤ…やっぱ嫌か?」
ニールが無意識に上目遣いでアレルヤを覗き込む。立ち位置として別におかしくはないのだが、ニールが誘っているように勝手に見えてしまう。
「いい嫌じゃ、ないよ!行く!」
声まで上擦ってしまった。もう最悪だ。
しかしニールはさも面白そうに笑って、アレルヤは本当に可愛い奴だなあといいながら暖簾をくぐっていった。



か、可愛い奴!?



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