確かにあのやり方はちょっと雑すぎたかな、とニールは反省した。会って次の日から呼び捨てで呼んでみたり、会ってから二週間も経つか経たないかのうちに無理やり酒に付き合わせてみたり、狭っ苦しい一人分の布団にアレルヤを倒してみたり、寝たふりして抜け出せないようにしてみたり。酒が入っていたとはいえ、ニールは強い方なのでそれはあまり関係無かった。もちろん酒の誘いだって、別に友達から飲み会を断られたからという訳でもなんでもなく、勝手に自分で買って尤もらしい理由を作ってみただけだ。大学の頃の友達は皆地元に残っていて、自分だけが東京に(とは言えまだ田舎っぽさが染み付いた下町にだが)きたせいか、この町に越してきてからは友達同士の付き合いなんてめったに無かったのだ。職場に居る郵便局員はもう盛りも過ぎたおじさんばっかりで話も合うことがなく、おやっさんに「お前配達員にまわれ」と言われた時は正直嬉しかった。配達は朝から自転車を飛ばさなければならなかったが、あの職場にいてだらだら話しながら事務作業をするよりずっとましだった。こんな感じだったから、おやっさんに連れられて銭湯に行き、そこにいた番台を見た時には思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。なによりもまず同年代っぽそうだったのが嬉しかった。わらわらと一気におばさん達に囲まれて、無下にもできず一人一人に挨拶をしながらさっと目をやると、その人もこちらに視線を送っているのに気付いた。近付いた時に何故か慌てていたが、別に変な奴だとは思わなかった。というか、貴重な若人だったから思いたくなかったのかもしれない。名前はアレルヤというらしく、いかにも気が優しそうな雰囲気を持っていた。もこもこした上着を着ているから一層そう見える。番台という職業柄当たり前かもしれないが、周りにいつも気を使っていて物腰も柔らかく、皆からも愛されているみたいだった。あまりにも落ち着いた和やかな感じを醸しだしていて、俺よりも年上だと思っていたら、なんと4つも年下だったのでびっくりしたものだ。俺が気安く話しかけた時も楽しそうに返してくれて、話す度により好感度が上がった。すこし天然というか見ていて可愛いげのある奴で、いつの間にかアレルヤは俺にとっての可愛いよき後輩といういいポジションに収まっていた。だからもっと仲良くなりたくて色々と絡んでみたが、向こうの性格からしてあっちから何か誘いをかけてくることはない。そこでついにこっちから酒の約束を取り付けたというわけだ。いきなりの提案だったのでアレルヤはすこし驚いたような顔をしたが、快諾してくれた。








「うーん…でもやっぱ迷惑だったかなー」
飲み会をした次の朝、自転車をこぎながらニールは少し顔をしかめた。朝起きた時にはまだアレルヤはぐっすり眠っていて、とても22歳の男には見えないような無垢な寝顔をこちら側に向けていた。本当に純粋そうな表情で、まじまじと見ながらこいつ女を抱いたことすらないんじゃないかと余計な憶測もしてしまったくらいだ。しかも昨日の夜、女と付き合ったこともないって言ってたし。というかまずあの顔で誰かを抱くっていうのを想像できない。しなくていいんだが。ニールは次々と家を回り、時々擦れ違う住民に挨拶しつつポストへと手紙を投げ込んでいった。ここら辺の住人は皆あの銭湯に通っているようで、挨拶した半分以上の人達は皆一度は銭湯でみた顔ぶれだった。よし、じゃあ今度飲むときには好みのタイプでも聞いてみるか。下世話になるかもしれないが、ニールはとにかくアレルヤともっと親しくなりたかった。これは決して興味本位というだけではなくて、寂しそうな顔をしていたり、あんまり人と密接に関わらない気後れしていそうな人にはどうしてもちょっかいをかけたくなるという、なんともお節介な自分の性格がかなり後押ししたものだ。この性格のせいであらゆる友達関係のいざこざに今まで巻き込まれてきたが、このお節介精神だけは抑えられなかった。貧乏くじだよなあ、まったく。でもこのおかげでとにかくアレルヤと知り合いになれたんだから悪いことばっかでもないかな、と色々考えながら、ニールは朝の配達分をさっさと片付けて、職場に戻るために自転車の方向を変えた。昨日は楽しそうにしてくれたから、今度誘うときは「この前のがとても楽しかったから次もどうか」てな感じでいけるな。よしそれでいこう。






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