出入りするお客さんに混じって、二人の男性が入口の暖簾をくぐって一緒に入って来た。一人はずっと前から知っている。イアンという名前で、時々銭湯の修理や点検をしてくれる人だ。が、もう一人は姿形も見たことはない。背が高くて、よくは分からないが自分と同じくらいの体格をしているようだ。背が低めのイアンと並んでいるから尚更そうみえる。しかし違うのは、その二人の周りを囲む人の量。イアンには彼と同年齢に見える男性が何人か集まって挨拶しているが、一方背の高いほうは沢山の女性客に囲まれていた。あれが噂に盗み聞く二枚目の男性なのだろうか。いや、そうに違いない。まだ彼らが玄関で話しているせいで遠目からしか分からないが、女性客と話しているその横顔がもうすでに整っているように見える。アレルヤは心なしか胸を躍らせながら、彼らが来るのを待った。
イアンは友人と挨拶をしおわったらしく、彼らと別れると早速囲まれていた連れをみて苦笑した。そして何かを女性客に言うと半ば強引に群れから救出させた。男性も軽く女性客に挨拶してその場をのがれ、靴を脱ぐとこちらに近寄って来る。来た、とアレルヤは思った。……と同時に、固まった。


「こんばんは」
彼はアレルヤを見ると、笑顔で挨拶してきた。アレルヤもすぐさま返事を……
「こ、んにちは」
は?自分は一体何を言ってるのだろうか、訳がわからない、いやそんなことはどうでもいい。それにしても格好良すぎたのだ。まず目に入ってくるのは彼の瞳。小さな頃に本に載っている写真で見た、深海のような紺碧色を中心に据えて、水浅葱を広がらせている。こんなに綺麗な瞳を、人間が生み出せるだなんて。そしてこの容貌。優しげな目尻にすっと伸びた鼻梁。薄めの唇には、そこらの芸能人よりもずっと自然で柔らかい微笑みをたたえている。髪の毛は珈琲に少しミルクを混ぜたような茶色。軽く波立っているそれは、歩く度にふわりと揺れて思わず触りたくなるような軽やかさだ。ここら辺ではあまり見られない、ぱりっとした白い長袖のカッターシャツを少し着崩して、下には普通の紺のズボンを履いているだけなのに、それでさえもこの人の魅力を一層引き立たせているというかなんというか…もう何にしても完璧だった。
ほんの一瞬でみとれ、時間が停止してしまったアレルヤを「あの、すみません…何か?」と見上げてくるのにやっと気付いた。
「い、いえすみません!初めてお会いするなあと思って。イアンさんもお疲れ様ですっ」と即座にフォローを入れて、木札を二枚用意した。八十円を受けとってからそれを渡すと、イアンと彼は男性の方の暖簾をくぐって行ってしまった。



はー……、とアレルヤはため息をついてへたりと背もたれに寄り掛かった。本当にかっこよかった。おばさん達があれだけ騒ぐのも頷ける。首元の釦が外されてあらわになった首筋と鎖骨がちらっと見えたのを思い出すと、顔を熱くした。それにあの声。テノールの心地好い音が、いつまでもアレルヤの聴覚をとらえて離さない。それに対して自分ときたら。こんにちは、だなんて恥ずかしすぎる。きっと自分の第一印象は最悪だっただろうな…と、思わず両手で顔を隠した。いつもなら脱衣所までも覗こうとするアレルヤだったが、今日ばかりは恥ずかしくてそんなことはできなかった。







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