午後5時くらいになると、お客さんが次々とやってきて賑やかになった。近所の人達にとってはここが情報収集の場所。会話も弾み、活気のある声で店内が一気に満たされる。あなた知ってる?隣町の理髪店が閉まるらしいわよ。ええっそうなの。なんでもそこの奥さんが宗教につかまったらしくて。あら、宗教ははまったら抜け出せないって聞くし、それは大変ねぇ。ああそう、大変といえば後藤さんの所の息子さん、このご時世だってのに就職先が駄目だったらしいわよ。どこどこ?郵便局ですって。まあ国営じゃない、残念だったわね。いやぁね田中さん、大事なのはそこじゃあないのよ。え、どうかしたの。そのかわりに入れた人がすっごい二枚目って話、聞いた?結構な噂になっててね、あんまり良い顔だから事務処理じゃなくて配達に回されたらしいわよ、お前の器量で我が郵便局の知名度を上げてくれ、って。愛想がいいだなんて最高じゃないの。そうよ、あぁここら辺にも早く配達来ないかしら。あらなに浮気?そんなもんじゃないわよ、目の保養よ。てことは旦那さんじゃ足りないって?あっはははは、あんたぁあんな旦那持ったってねぇ…………
よく響く大声でおばさん達が話すのを聞き流しながら、次々と来る客に対応した。だれもパートとして雇ってないために、この時間になると忙しい。番台から木札を取り出したり、牛乳瓶を回収したり、時々ゴミを拾ったり。アレルヤはまめな性格なので、1時間毎に浴場の見回りをする。のぼせたりしている人や気分の悪そうな人を見つけるためだ。女性の浴場に行っても慣れたもので(慣れているのは女性のほうだが)あら番台さん、今日も精がでるねえ、一緒に入ってみる?と言われる始末。苦笑いしながらその場を離れる。しかしアレルヤとしては、男性の風呂に入りたい。聞けば当たり前だが、勿論他意が半分を占めている。




「………牛乳を一つ」
番台に戻ると、アレルヤを待っていたらしい少年が近寄ってきた。
「あ、刹那君こんばんは。毎日ありがとう。最近学校の調子はどう?」
「………問題ない」
あくまでも最小限の発言しかしないこの少年も、ティエリアと同じく毎日足を運んでくれている。そして30分くらいすると、必ず牛乳を一瓶買い、それを番台のそばで黙々と、またはアレルヤと少し会話をしながら飲むのが日課である。どうやら脱衣所や休憩所のような騒がしい所が苦手のようだった。今日は何も話すことはないらしく、飲み終えると瓶をアレルヤに渡してすぐに帰っていった。もう10時だ。時間がすぎるのが早い。仕事も一段落して、つかの間の休憩がやってきた。朝作っておいたおにぎりを鞄から取り出す。味付けは塩だけだが、疲れた体には丁度よくてありがたい。そういえば、と、アレルヤは手に付いた米粒をぺろっと食べながら思った。さっきおばさん達が言ってたな、なんか相当かっこいい人がいるみたいだ。どんな人なんだろう、いつか銭湯にも来てくれないかな。そしたらちょっとだけでも話せるのに。浴場に見回りに言った時も別のおばさんがその男の人の話をしてたし、本当にかっこいいんだろうなあ。一度まみえてみたい。






そんな事を思った矢先、だった。



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