「はー食った食った」
「お腹いっぱいだね……」
ぽかぽかと幸せな気持ちになりながら、ニールとアレルヤは料理を完食した。時計を見上げればもう十一時になりかけていた。銭湯を後にしたのが確か九時過ぎだったような気がする。今年ももうあと少しで終わるのだ。去年は全然気にもしていなかったのに、今となっては一分一秒でも過ぎていくのが惜しいくらい年越しを満喫していた。こたつの温かさでふわふわといい気分だし、満腹だし、何よりも大好きな人と一緒に過ごすことができる。ニールは台の上に顎を乗せて、ふぅ…と満足そうなため息をつくのをぼんやりと眺めながら、目の前の恋人に感謝した。
「ニール、今日は色々ありがとう」
「んー…なにが?」
ニールは目線だけをこちらに向けて、それでも声色優しく答える。
「年越し一緒に居ようって言ってくれたの、すごく嬉しかった。ニールが居てくれて初めて、こういうのっていいなって思えたよ」
だからありがとう、と恥ずかしそうに言う。こんな時だから言えるし、こんな時だからこそ言いたいから。ニールには何から何までお世話になっている。その度に自分もなにか恩返しをしたいなと常日頃から思っているけれど、特に大したこともできないし、たまに料理を作るくらいで、いつもしてもらうものに見合うだけのお返しがほとんどできていない。……だからもしかしたら、してあげるばかりのニールがいつか僕に愛想を尽かしてしまうんじゃないかじゃないかとか、馬鹿みたいに不安になる時もある。いや、きっとこの不安はいつもは隠れているだけで、心の中ではいつも感じていることかもしれない。だけどニールはそんな様子は露とも見せず、常に僕のことを考えてくれている。今日だってそうだ、興味があった鐘つきも、僕が何にも言わなくてもすぐに列に連れていってくれた。いつもさりげなく見てくれている。僕にはそんな器用なことはできない。だからアレルヤはただただ感謝の言葉を口にすることしか出来ないのだ。
「僕、貴方の喜ばせる術を何にも知らないから、お礼をいうくらいしか…」
眉尻を下げてそう言うと、ニールはあからさまに変な顔をした。気に障ってしまったかなあと様子を伺うと、ニールこたつの中で、おもむろにアレルヤの足を自分の足で軽くつねった。
「っつ……!」
「なーに言ってんだよお前さんは」
「痛っ………ニ、ニール?」
「言っとくけどなあ、お前が普段くれるものは俺がしてやってることなんかより何倍もでかいんだからな」
アレルヤは目を見開いた。
「そ、そんなもの、僕があげられてるとはとても思えないんだけど……」
つねられたところを手で擦りながら、アレルヤ今までの色んなことを思い返してみた。まあよく考えたらたまに湯代をツケにしてあげたりはしてるけど、他にこれといって思い当たる節は無い。するとニールは呆れたように眉を片方上げながら、
「本当に気づいてないのかよ…つーか言わせる気かあ?こりゃあ天然とかそういう次元の話じゃねえなあ」
と呟いた。天然以上の人間でも気が付つくようなわかりやすいこと、ということだろうか、ますます意味が分からない。アレルヤが戸惑っていると、ニールはむくりと顎を離して起き上がってから、アレルヤを真面目な顔でじっと見つめた。な、なんですか、と釣られて見返す。
「教えてほしいか?」
「う、うん、できれば…」
硬直状態で冷や汗とも違うなにかが肌を滑り落ちるのを感じながら答えた。だって知らない間に僕がニールになにかをあげているということは、それがニールにとって嬉しいことだけならまだしも、気分を損なわせるようなことまで知らず知らずのうちに与えてしまっている可能性もあるし……。するとニールはしばらく考え込み、よし、と両手で台をばんっと叩いた。
「じゃあアレルヤ、お前は俺が教えてやる代わりに寝室に布団を敷けよ」
「分かった……って、ええっ!?」
あまりの急展開に頭がついていけない。
「僕が何をあげているのかを教えてくれるんじゃ無かったのかい!?」
「教えてやるって、だからとりあえず寝室に布団を敷け。襖ん中に入ってるから」
ニールはこたつの電源を消し、それから抜け出てすっくと立ち上がり、アレルヤをずるずると部屋から引っ張り出した。はんてんをつかまれてしまってはもはや抵抗は不可能で、ニールの真意が掴めないままに寝室へと引きずられる。一番奥とはいえ、居間からほとんど離れていない寝室に到着すると、アレルヤは言われるままに箪笥を開け、布団を取り出して敷きはじめた。ニールがまじまじと見つめる中で、気まずい状態で布団を敷く自分が恥ずかしくて仕方が無い。何だか僕がやる気まんまんみたいな感じじゃないか…。
「よし。それじゃその布団の上に座って」
アレルヤは敷き終わった布団の上にちょこんと座る。するとニールはアレルヤの前に座り、やっと教えてくれるのかと思いきや、当然のごとくアレルヤを押し倒した。そしてどこまでも甘い表情でにっこりと笑い、本日二回目の言葉を紡いだ。
「それじゃ、いただきます」








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