「あっはははは」
「もう、そんなに笑わないでくれ…!」
無事に…というよりも、なんとか鐘を鳴らし終えた二人は、お寺をでて再びニールの家へと向かった。アレルヤは恥ずかしさで顔を真っ赤にして、身体が熱くなるのを感じながら急ぎ足で歩く。ニールも悪い悪い、と言いつつもにやけながらそれに続いた。
「な、でも面白かったな?」
「…うん、やってよかったとは思うよ」
冬の寒さが二人を家路に急がせる。痛いくらいの冬風に煽られながら、先程のお寺から少し道を戻って10分ほど歩けばもうそこはニールの家だ。すっかり見慣れてしまったこの家も、周辺の明かりのついた家に囲まれて今か今かと主人の帰宅を心待ちにしていた。ニールは鍵を開けて明かりをつけると、アレルヤを居間ではなくそのまま台所に通した。そういえば今日はお蕎麦を作りに来たんだった。つい鐘のことに頭がいってうっかり忘れそうになる。アレルヤの家に比べるとここは台所が二まわりほど小さい。ガスの近くに買い物袋が無造作に置かれていて、それがお蕎麦の材料だとニールは言った。
「適当に買ったんだが…作れるか?」
「十分だよ、あ、鶏もあるんだ」
アレルヤはごそごそと買い物袋の中身を取り出す。必要なものどころか色んなものが大方入っていて、材料を見るうちに料理への意欲がふつふつと沸いて来る。具だくさんが好きなのだろうか。何故かじゃがいもまで入っているのを見つけ、思わず苦笑した。
「さすがに…お蕎麦にじゃがいもは…」
「………駄目か」
「うーん、じゃあ煮物も作ろうか?」
それを聞くとニールは急に顔を輝かせた。
「じゃがいも買った甲斐があったぜ」
「僕一人でも大丈夫だから、ニールは居間で待ってて。30分くらいしたらできるはずだから」
「いや、俺も今日くらいは手伝うぜ。いっつもやらせっぱなしだからな」
ニールはジャンパーを脱ぎ、やる気をだして腕まくりをする。そこから察すると今回はどうしても手伝いたいようだ。この狭さで大の男二人かあ…と少し迷ったが、アレルヤも一緒に誰かと台所に立つのは初めての事なので、この際ちょっとだけまかせてみることにした。早速料理に取り掛かる。
「じゃあ材料を切ってもらおうかな。鶏肉はぶつ切りで、白葱を薄く斜めに切って、ごぼうはささがき。人参とじゃがいもは好きに切っていいよ。白葱とごぼうは水にさらしてね」
「任せろって」
包丁で切るものはあらかた任せて、こちらはだし汁作りをする。水に煮干し、干し椎茸を水に浸したものと戻し汁投入し、次にだしの素と料理酒を注ぐ。強火で温め、沸き立ったら強めの弱火で保温すればいいだけだ。隣を見ると、ニールは意外にも手際よく包丁を扱っている。ぶつ切りはもちろんのこと、ささがきだって均等に薄く切れている。アレルヤは隣からのぞき込んで感心した。
「器用だね」
「手先だけはな。つーか前々から知ってるだろ?」
「えっ?」
「……いろんなとこで」
そう言って下世話にもにやりと笑うニール。こんな時に何を言ってるんだ、と軽く呆れながら、たった今切ってくれたじゃがいも以外の材料をもらって投入し、あとは醤油を感覚で入れる。ひと煮立ちさせている間に次は煮物だ。煮物とはいっても手抜きだけど、じゃがいもとひじきに水を吸わせ、これまた砂糖とみりんと醤油で味つけする。
「ちょっと薄すぎるかなあ…」
「構わないぜ、ジャガ芋が入ってるなら基本何でも食うから」
だし汁に入れた鶏肉に火が通るのを見てから蕎麦の麺をさっと茹でて器に入れ、その上からあつあつのスープをかけてやれば完成。煮物も小皿に盛りつける。あっという間にできあがった料理たちをみて、ニールは満足げな顔をした。
「本当に30分でできたな。よし、居間に運んでくれ。俺は飲み物入れるから」
アレルヤは大きめのお盆に乗せて居間に運びこむと、そこにはなんと、この前来た時には置いていなかったこたつがあった。ふかふかの綿布がかけてあるそれは見るからに暖かそうだった。申し訳ないが勝手に電源を入れさせてもらう。そしてちんまりと正座してニールが来るのを待った。ニールはちゃんと熱いお茶ではなく冷たい水をもってきてくれた。二人でこたつを囲み、同時に手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
言い終わるや否や、ニールは真っ先に蕎麦に手をつけた。良い匂いの湯気に包まれながら、ずるずると麺を頬張る。アレルヤがはらはらと反応を見守る中、うまいぜ、とニールは顔を綻ばせた。
「やっぱ寒い時にはこういうのが一番だな。ん、煮物もうまい」
「よかった。おんなじような味だから煮物はちょっと控えめに味付けしたんだ」
感想にほっとして、アレルヤもふうふう冷ましてから食べてみる。鶏と椎茸のだし汁が効いてとても味わい深い。あっさりしてるし、身体にもいいからまた作ろうかな。それから二人は口数も少なく、麺ものということもあって、長い間外気にさらされて芯まで冷えてしまった身体を温めるように夢中で食べた。








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