年越し、一緒に過ごそうな。いつもより早く来た最後の常連客を二人で見送った後、そう言い出してくれたのはニールだった。今日は大晦日で、お客さん達はそれぞれの家族と夜を過ごすために早めに銭湯を訪れているせいか、夜辺りになるとお客さんは殆どいない。ニールもまたその内の一人で、今日はいつもより早くやってきていた。アレルヤは銭湯の脱衣所を掃除している時や見回りをしている時に周りから聞こえてくるお客さん達の話を聞きながら、そうか、もう今年も終わってしまうのか、と感慨に耽っていた。冬が過ぎる時間をとても早く感じる。今冬ニールに出会ってからは毎日が楽しくて飛ぶように時が過ぎるから無理もないけれど、なんていうか、人ってこういう風に知らず知らずのうちに年をとるんだなあ…なんて年寄りくさいことを考える。皆のお正月への僅かな興奮を銭湯内で共有できるのは嬉しいけれど、帰り際に「良いお年を」と皆が声をかけてくれるのは嬉しくもあり、淋しくもあった。皆には帰るところがある。温かい家族という等身大の心地好い居場所があるのだ。しかしそれはアレルヤには決して無いものだった、欲しくても手に入らないものだった。毎年家でいつも通りに過ごすのが普通で、団欒というものはもう随分と久しいものになっていた。一人で過ごす年越しというのは実につまらなくて、美味しいお節料理を作っても一緒に食べる人がいないし、明けてからすぐにおめでとうと言える相手もいない――そのせいか、アレルヤはお正月に対してはあまり純粋に喜びを感じられなかった。だからそれも相まって、今日唐突にニールが自分に声をかけてくれた時はそれはもう飛び上がりたくなるくらい、本当に嬉しかったのだ。玄関口で隣に立っているニールを見つめた。
「一緒に?いいの?」
「ああ、お前さんさえよければな」
ニールもアレルヤの方を向いて、漏れる外気に冷やされて白くなった息を吐きながらそう返した。その白い息との境界線を見失ってしまいそうなくらい、ニールの肌は透き通るように綺麗だ。
「弟さんと過ごさなくていいのかい?」
「いいよ別に。友達とぎゃあぎゃあ騒ぐらしいし」
ニールはズボンに手を突っ込みながら難無く答える。その言葉に、アレルヤは一気に自分の気分が高ぶるのを感じた。なんでだろう、急にニールがいつもの倍かっこよく見えた。
「駄目か?」
「ううん!…すごく嬉しい」
頬を染めて喜ぶアレルヤを見て、ニールも満足げに笑う。
「じゃあ戸締まりしようぜ。んでもって俺ん家に来いよ」
「ニールの?」
「そう。家に蕎麦の材料買い置きしてきた。お前に作ってもらおうと思ってな」
アレルヤの美味い蕎麦が食べたくてさあ、もー寒いったらありゃしねえよ、と言いながら、ニールはアレルヤの頭をぐりぐりと撫でた。温かい温度が頭に伝わる。
「な、だから早く閉めようぜ」
「……うん!」
アレルヤは返事すると、元気づいて急ぎ足で玄関を離れ、戸締まりに取り掛かった。さっきとは打って変わって、明るい期待に溢れる気持ちで胸をふくふくと膨らませながら手早くそこらじゅうを片付ける。ああ、ニールはなんて素敵なことを考えてくれたんだろう。知らないうちに鼻歌混じりになっている。てっきり今年も寝正月だと思っていたのに、思いがけなく大好きな人と一緒に新しい年を祝うことができるなんて、それにお蕎麦の買い物までしてくれているし、こんなにわくわくすることがあるだろうか。朝ご飯、お昼ご飯は共にいつもどおりがっつりと食べてしまったけど、そんなのはどうでもよかった。こうなったら、ニールが今までに一度も食べたことが無いくらいの、とびっきり美味しいお蕎麦を食べさせてあげよう。そしてニールの喜ぶ顔がみたい。アレルヤはすっかり浮足立っていた。







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