text:long | ナノ


はじめに、を一読されてからどうぞ。










***
世界には、上界・地界・下界があった。上界は神々と天使が住み、地界は人間が住む。下界には魔物が住んでいる。



地界の人間は上界の神々や天使を信仰し、下界の魔物を恐れた。


しかし、地界で下界の魔物や上界の神を煩わしく感じた人間が、ある教えを布教し始めた。


それは「異種廃絶論」と呼ばれた。異種とは、上界の者と下界の者を指し、建前上は魔物を倒すことを理想とするものだが、その真相は、上界の者も廃絶し、人間が人間を完全に支配することを理想とするものだった。


強国の王の間でこの教えは瞬く間に浸透し、「異種廃絶論」は強大な権力を有するものとなった。


しかし、国民は上界信仰者が多かった。そこで国王達は建前だけを国民に説いた。

そして、上界信仰と異種廃絶論を信仰するという、矛盾を孕む宗教が誕生した。





その「異種廃絶論」が国民の間では浸透し始めた頃、一人の天使が上界から地界のとある小国へ、








落ちた。









小国アザレアは中央に美しい教会を持つ、上界信仰が根付いている国だ。国民の大部分が農業に従事する緑豊な国でもある。

アザレアが、夕方が終わり夜の色を濃くした頃に、空から青い光が一筋、アザレアに向かって落ちてきた。


国民達は何か隕石が落ちてきたのかと大慌てで光が落ちた周辺に向かった。

隕石であれば大切な農地が抉られてしまうからだ。

さらに、隕石であるならば、他の隕石が落ちてくる可能性もある。

人々は不安を抱えながら光が落ちた場所へ向かう。




しかし、そこには薄く青く輝く、一人の美しい少年が横たわっていた。




土地は人が空から落ちてきたのにも関わらず、抉られていない。


国民は彼が上界の者であるのを察し、気を失っている彼を手厚く看病した。



銀髪の、美しい少年だった。










私が目を覚ますと、そこは上界の石造りの宮殿とは違い、木造の小さな部屋だった。

質素なベッドに寝ているが、私は自身がどうなったのか皆目見当がついていなかった。



私は上界から落ちてしまった。



落ちている時、背中にあった天使の力の象徴である羽根が少しずつ融解し、背中から落ちている私の視界は白で覆われてしまった。

天使の力が融解した私は、一体何者になったのか。上界に戻ることは出来るのか。疑問が頭を駆け巡っていると、ある懐かしい声が頭に響いた。


『ガゼル!』


それは、私が天使ガゼルであった頃仕えていた美神アフロディテ様の声だった。
この声は上界からテレパシーで送られているものだろう。


『アフロディテ様…!』


と私が応じるとアフロディテ様は安堵なさったようで、ふぅと息を吐かれた。


『無事なようだね…。良かったよ。しかし…君の羽根は融解してしまった。ガゼル、君は今、人間と天使の間の存在になっているんだ。』


『…やはり、そうですか。』


淡々と応じると君は理解が早いね、とアフロディテ様は笑われた後にさらに言葉を続けた。


『君は神に逆らって堕天した訳でも、神から追放された訳でもない。君の、体を張った友情だよ。』


僕らは君の行いに間違いはないと思っているよ、と言われ、神に認められたかのような幸福感が胸に溢れたが、アフロディテ様は重苦しい口調だ。


『僕は君に上界に戻って欲しいんだ。でもね、事故で落ちた天使の羽根が、力が、融解するなんて、前代未聞だ。君には今、天使として働くだけの力は残されていない。上界には、戻れない。…今はまだ、ね。とりあえずは地界で生活してもらうよ。』


『わかりました。』


『君が上界に戻れるよう、全力を尽くすよ。君に神の加護を。』



アフロディテ様との会話が途切れた時に、一人の少年が部屋に入ってきた。


眼鏡をかけた、黒髪の少年だ。私が上体を起こしているのを見て、嬉しそうに笑った。


「上界の方、お目覚めですか。」


「ああ。すまない、迷惑をかけたようだね。」


「そんな!上界の方のお世話が出来るなんて俺は幸せです!」


頭を振って否定する少年の様子から見て、ここは上界信仰が根付いているのだろう。


「ありがとう。一つ尋ねたい、ここは何処なんだ?」


「ここはアザレア国の農村部です。」


アザレアと言えば、私がよく上界から覗いた国だ。大体の地図を思い浮かべられた。


「ほぅ、緑の国アザレアか…。あぁ、君の名前は?」


「申し遅れました!アイキューと申します!」


「アイキュー、いい名だね。私はガゼルだ。」


簡単に自己紹介をした後、アイキューが思いついたように、


「ガゼル様、お腹空いてませんか?ずっと寝てらしたので、何も召し上がってませんよね?」


と聞いてきた。


「え、ああ。しかし天使は…」


食欲を持たないんだ、と続ける前にぐぅとお腹が鳴った。アイキューは笑って今準備します、と部屋から出ていった。


上界の者は欲を持たない。食欲も睡眠欲も、性欲も。なのに私は腹部が物足りない、と感じた。



人間と天使の間の、存在。私はそれになったのだ。一体どこまで人間に近づいたのかはわからないが、ある程度の変化を受け入れる他ないようだ。





人間と元天使の共同生活が幕を開けようとしている。





01:上界から落下しました。



110515


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