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学パロ
継続する関係の続きです













***
朝、布団から出るのを渋っていると、母さんが「何時まで寝てるの!」と怒気を孕んだ声で短く叫んだ。ごめんごめん、と心中で謝って、ベッドから這い出る。


真新しい制服。中学は学ランだったが今ハンガーに掛かっているのは、ブレザー。センスが良いと、この辺りでは有名だ。成る程確かに黒と金のラインの組み合わせは格好良いと言える

ネクタイを結ぶのに全く慣れない。ダミーじゃ駄目だったのかと心底思うが今更遅い。制服を着終えたら、教科書の入った重めのスクバを持って階段を下る。


「遅いわよ!もう晴矢くん来ちゃうでしょ!」


ご飯に味噌汁、焼き魚とほうれん草の胡麻和え。純和食らしい朝ご飯を食卓に並べて、母は怒る。そろそろ晴矢が迎えに来る時間なのは本当である。ばくばくの擬音が似合うような勢いで平らげて「歯磨き!」との叫び声に応じて洗面所に駆け込む。今日の母はご機嫌斜めのようだ。朝はいつもそうだが


顔を洗ってから歯磨き粉を塗りたくった歯ブラシを口に放り込んだ時に、ピンポーンと呑気な音が響いた。


まずい、晴矢だ!


はいはーいと応じる母に焦りながら、大急ぎで磨き終えて、先程椅子に置いたスクバを引っ掴んで玄関を目指す。今日はいつもよりバタバタした朝だ。


ごめんなさいね、と晴矢に謝っている母に苦笑いと行ってきますを告げて、晴矢と並んで門を出た






「風介んとこの母さん、優しそうだよなー」


「そうだね…。朝以外は優しい母親だよ。綺麗だし」


「マザコーン」


「自分を生んだ母親が綺麗なのは誇れることじゃないのか」


「えー…。いや、そうかもしんねぇけど、恥ずくね?」


「面と向かっては言えないよ…」

他愛ない話をしながら、登校する。中学の頃も二人で登校はしていたが、道の途中で晴矢がクラスメイトに話し掛けられるので、私はその度にそっと晴矢から離れて登校していた。晴矢には離れんな!と怒られていたが、人との交流が苦手な私には、クラスメイトを含んだ団体で話せる気がしなかったのだ。


しかし今は誰にも邪魔されない


何故なら私達は今、自転車に二人乗りをして登校しているからだ。誰にも話し掛けられないだろう

この二人乗りは駅までだから、高校から怒られることもない。最高の通学方法だと思う



この瞬間は、私が晴矢を独り占め出来るから



なんて言うと晴矢が調子に乗るので言わないが。…言えるのは、私にもそれなりの独占欲があることである



荷台での座り方は二つだ。晴矢と背中合わせで座る方法。

そして今している晴矢に抱き付いて座る方法。肌寒い時は大抵この座り方だ晴矢は子供体温なのでカイロ代わりになる

私より体格が少し良いのが同じ男としては物悲しくもあるが、安定感ある運転に繋がるのだ、と自分を励ますことにしよう


片道15分弱の駅にたどり着いたら、次は電車通学である。情けないことに、私は一人では電車を正しく乗れない。何々線だとか、下りなのか上りなのかとか、ついうっかり間違ってしまうのだ。間違えれば、まずHRには間に合わないだろう。晴矢との登校は私が遅刻しない為の必須条件と言える


本当は高校生にもなって、人に頼らないと登校出来ないなんて、恥ずべきことだ。晴矢に何回も繰り返して教えて貰えば、私だって間違えずに乗ることくらい出来るだろう


でもそれは、晴矢と私の二人での通学が解消されてしまうのと同意義なのだ


中学の頃は、同じ高校=同じ通学路だと思っていたのだが、違った。私と晴矢の家の最寄り駅は別のもの。今は私がちゃんと通学出来るまでの期限付きで晴矢が私を迎えに来て、私の最寄り駅を使って通学している


最寄り駅が違うということは、晴矢と私の家が決して近所ではない、ということだ。中学は晴矢と私の家を結んだ一直線上にあった。だから、私が登校すれば晴矢の家付近を経由することになり、すんなりと落ち合えた。けれど高校はそうはいかない。母は「早く、電車乗れるようになりなさい!いつまで晴矢くんに迷惑かけるつもり!」と言っている。自身の最寄り駅でなくわざわざ私を迎えに来なければいけないなんて、迷惑以外の何物でもない


そうは思うが、私は晴矢と一緒に登校したい。


晴矢も迎えは別に苦じゃねぇよと言っているんだ。いいじゃないか、強がりなのには気付かない振りをしよう。私のエゴであることには気付いているが


けれど私が電車に乗れるようになれば母さんは何が何でも、晴矢に迷惑がかからないように別々に登校させるだろう


だから私はいつまで経っても、私は電車を間違えるし、晴矢も「その電車は違ぇ」と言う割に、正しいのは何線なのかということを決して伝えないのだ




二人一緒に、登校出来るように








110415


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