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カオス結婚記念日おめでとう!
遅刻したけれど、愛は詰め込みました。

内容は南涼で、朝の紅茶と同設定
少し長めです








***
今日は久しぶりに一人で家に帰って来た。晴矢は部活が終わるまで待っていたらしい、女子三人に引きずられて行った。恐らく、もう一人女子がどこかにいて、告白でもするんだろうと思う。よくあるパターンだ。


晴矢は、おい!と声を荒げて逃げ出そうとしていたが、面白そうだったので、最後まで聞いて来なよ、と伝えて私だけ帰った。


ああいうパターンの告白は女子同士が団結しあって、長引くのだ。今も晴矢はこの寒空の下、女子に捕まっているに違いない。実に愉快だ。


玄関から入ると、無人の部屋は当然の様につん、と寒かった。…いつも騒がしいから気付かなかった。マフラーと手袋を取って、さっさと部屋着に着替えてしまおう。

久しぶりの一人、楽しまないと損だからね。





テレビの前にある、ソファにぽすんと座った。身体を受け止める時の感覚が気に入っている。

リモコンを取って、テレビをつけた。大抵ここで既にどの番組を見るかで晴矢と論争になる。彼が見たいという番組は幼稚すぎると思うが、晴矢から言わせると私が見たいという番組は面白みがないらしい。

その面白みのない番組を悠然と見る。私にはこちらの方が随分有意義だと思えるのだ。



しかしいつの間にか、この意見に対して晴矢ならどう返すか、考えている自分がいた。今この場にいないのに、だ。晴矢の存在が自分にとってどれだけ大きいかを思い知らされた。…不愉快だ。


テレビを消して、ごろりとソファに横になる。これも二人では出来ないことだ。ソファに常備している毛布を被って、寝ることにする。



おやすみ晴矢、精々疲れて帰って来てね。











毛布をぶわりと剥ぎ取られて、突然冷気に晒された。…寒い!


目が覚めてしまったので、仕方なく視線を上に投げると予想通り、晴矢が立っていた。少し笑っている。


そしてあろうことか晴矢はソファに無理やり押し入り、私に抱きついてきた!


ソファに男子二人が寝るスペースなどない。さらに晴矢は今まで外にいたのだ。身体の芯まで冷えきっている。

私はぬくぬくと毛布にくるまって寝ていたのにこの急激な温度変化についていけるだろうか、いやついていけない!


「君は馬鹿か?!寒い!毛布を返せ!そして離せ!」


「嫌だ、離すかよ。風介温いなあ!俺を置いて帰って、一人で寝てただけはある。」


「…煩い。」


相変わらず冷たい腕で抱きしめてくる晴矢から視線をそらす。


「まあ、今回風介が不機嫌になってんのは俺の所為だから大目に見るけどよ、流石に家から閉め出そうとすることはないだろ。」


「ああ、そういえば君どうやって入って来たの?いつも鍵忘れる癖に。」


にたり、と嫌な笑い方をして晴矢を見ると、晴矢は苦虫を潰したような顔をした。


「やっぱ故意かよ…。今日は忘れたらまずい気がしてな。持ってたんだよ。」


「それは残念だったなあ…。」


「…本当いい性格してるわ風介…。俺が鍵持ってなかったらどうするつもりだったんだ?」


「隣に生えてる桃の木を登ればいいさ。屋根の上なら、二階の窓から入れるだろう?」


「ついでに二階の窓は?」


「無論どれも開いていないよ。」


「結局入れてねぇ!!」


鍵持ってて良かった…と心底安堵しているらしい晴矢を笑い、いつもの我が家だと共に安堵したことと、晴矢が鍵を持っていったかを確認した上で鍵を閉めたことは黙っていようと思う。




「なあ、罪滅ぼしって言ったら難なんだけどよ…。」


晴矢はがさごそとコンビニの袋から赤いポッキーを取り出してきた。帰宅中に買ってきたらしい。


「ポッキー?それが私の楽しみにしていた、あのショコラケーキの代わりになると?クララや由紀や愛たちと入念に計画を立ててやっと購入できたあの幻のショコラケーキの代わりになると!?」


思い出すとまた腹が立つ。この男は私の大事なショコラケーキを平らげてしまったのだ!!


「悪かったって…。そんなに凄い奴だとは知らなくて…。今度買ってくるから、今日はこれで勘弁してくれ!」


折角ポッキーの日だからさ、な?と晴矢はへらへらと笑いながら許しを請う。

さて、ここで私はどうするべきだろうか。許すか許さないかの二択である。私は、


「ほう…?買えると言うんだね、あのショコラケーキを。…なら今日のところは許してやろう。頑張って買って、来てね?」


にやりと笑って許すことにした。ショコラケーキは残念だが、幻が幻たる所以がある。おそらく晴矢は購入できないだろう。仕方ない、過去をとやかく言っても変わらないのだ。気持ちも落ち着いてきたことだし、今回は許す。

後に、購入する姿勢さえ見せてくれれば、完全に許そう。



変な意地を張るのはこちらも大変だからね。







「そのポッキーくれるんだろう、晴矢。」


「ああ勿論。風介の為に買ってきたんだしな。…風介、ポッキーゲーム知ってるか?」


「ん?ああ、両端からポッキーを食べて、唇が当たる手前で止めるってゲームだろう?」


「それそれ、やろうぜ。ポッキーの日なんだからよ!」


「…私に何もメリットがないな…。興味ない。」


「勝ったら風介が上でもいい。」


「…それは本当か。」


なるほど、それは甘美な誘惑だ。私だって男だ、一度くらい上になってみたい…。


「どうするんだ?」


「やろう、晴矢。」


「そうこないとな!」


晴矢はにこやかにポッキーを準備している。ポッキーゲームとはキスする直前、どれだけギリギリで止めたかで勝敗を決めるというルールだ。しかし、今回は食べた距離を比べて勝敗を決めることになった。


「ん、」


と晴矢はポッキーのチョコ部分を咥えた。私はクッキースタートらしい。

晴矢は甘いものが苦手だ。あえてチョコから咥えることに少々疑問が残るが、まあいい。この勝負、勝ってみせる…!


私もぱくりとポッキーを咥えた。案外顔が近く感じるんだな。


「よおい、すはぁと(用意、スタート)。」


もぐもぐ、とまずクッキーを食べる。うん、美味しい。晴矢も黙々と食べている。しかし、甘いものが得意な私に勝てるわけなかろう。チョコの部分に入れば、私が勝ったも同然だ!


そして食べ進め、チョコの部分に到達して、私はぴたりと動きを止めた。


晴矢はニヤァと意地の悪い顔をしている。謀ったな…!!


「きしゃまあ…!」


晴矢は知っているはずだ、私がメンズポッキーが苦手であることを。

何故だ、さっき晴矢が持っていたのは赤いポッキーだったはずだ!メンズポッキーではなかった!

しかし今私が食べているのは紛れもなくメンズポッキーだ、この苦味は間違いない。


ギンッと睨みつけても、晴矢はニヤニヤと笑うだけだ。やってられるか、とポッキーから口を離しそうとするが、晴矢が後頭部を押さえて来て、に、逃げられない!



ポッキーを折ればいい、という発想に私がたどり着く前に、晴矢はあっという間にポッキーを食べきって、


「んむ…んー!?」


ちゅう、とキスをしてきた。…ポッキーゲームは寸前で止めるゲームだろう?!何をしてるんだ、とさらにきつく睨みつけるが、やはり晴矢は笑うだけだ。


何が罪滅ぼし、だ!君はこれがやりたかっただけだろう!




ソファに座ってゲームをしていたから、晴矢に体重をかけられて私はすぐに後ろに倒れてしまった。

ばたん、と倒れてもなお晴矢はキスをやめようとせず、さらには舌を入れようとしてきた。たまらず私はバチンと晴矢の頭を叩いた。

「いった…。」


「馬鹿だろう君は!!何が罪滅ぼしだ!いつの間にかメンズポッキーになってるなんて聞いてない!!」


「そりゃ言ってないしな。ポッキーとメンズポッキーどっちも買ってただけだ。…俺の勝ち、今日も俺が上だな!」


「ずるい!」


「はいはい、気付かなかったお前が悪い。寝室行こうぜ、風介?何ならここでもいいけど。」


「………寝室がいい。」


了解、と言って晴矢は私を抱き上げた。私は晴矢の服をぎゅ、と掴むことしかできなかった。







…毎回毎回晴矢のペースに飲み込まれてしまう自分に無性に腹が立つ。けど私は一生晴矢に振り回されてしまうんだろうな。





……悪くないね。










後日、ちゃんと幻のショコラケーキを買ってきて、謝ってくれたよ。



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