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GOOOhit記念に10年後の南涼が
出てきます



バーンと涼野(10年後)、ガゼルと南雲(10年後)の話










***
ぼわん、とガゼルの周りを煙が包んで、



大人になったガゼルが出てきた。




いや、最初からガゼルと決め付けるのはよくないかもしれないが、身長や顔の輪郭や服装が変化しているとは言え、翡翠の瞳や樹氷の様な髪は紛れもなくガゼルのものだ。


しかし、俺とガゼルはミーティングルームでカオスの作戦会議をしていた筈だ。ガゼルを煙が包む理由も、中から成長したガゼルが出てくる理由もない。



訳が分からず、呆然とガゼルを見ていると、デカいガゼルが


「ははは!」


と大きな笑い声を上げた。ガゼルはどっちかって言うとニヤリ、と口角を上げて、歯を見せずに笑う奴だ。笑い声なんて久し振りに聞いた。


「すまない、戸惑うのも無理はないな。私は涼野風介だ。ただし、君から見たら10年後の世界の人間だがな。」


「は…?」


デカいガゼルは、私は10年後から来たんだ、と付け加えた。


「吉良財閥の技術力なら時間や空間を飛び越えるものくらい作れるのさ。」


それは、中々世の中の奴らは理解出来ない話だろう。だが、


「まぁサッカーボールの空間移動能力には世話になってるし、全部が全部否定出来るって訳でもねぇな…」


吉良財閥ならやりかねないし、デカいガゼルが出てきた理由に繋がる。そう返すと、


「やはり君は聡いな、晴矢。」


とガゼルはふわっと笑いながら言う。その笑顔はお日さま園の風介に似ていた。

こんな笑顔のガゼルなんて見たら、いつもなら頬が熱くなるだろう。けどその笑顔の主は俺の知ってるガゼルではなくて。…俺の表情は硬いままだった。




「…分かった。あんたを10年後のガゼルだって認める。他人の空似、ではなさそうだしな。」


淡々と言うとガゼルは頬杖を突いた。指がカツン、と音を立ててテーブルに置かれた。青いマニキュアが塗られていた。


その青を見ていたら、無性にガゼルに会いたくなった。この時代のガゼルに、だ。


「あいつは帰って来れるんだよな。」


あいつ、で誰を指すか察したらしいガゼルは少し目を細めて俺を見た。


「ああ勿論。そう身構えなくても必ず帰って来るよ。…私は未来を知っているのに、君は興味ないのかい?」


「あ?…そうか。」


10年後から来たのだから、俺らの未来を知っている訳だ。


「聞いたら答えてくれんのかよ。」


「ああ。」


ガゼルの表情は大人の余裕があった。それは俺を苛立たせた。多分、俺が状況についていけてなかったからだ。


「なら、聞きたい。あんたは自分を涼野って言った。俺を晴矢って呼んだ。…10年後、エイリア学園は無くなってんのか。」


ガゼルは俺の目をじっと見つめてから、


「そうだね。無くなっているよ。…今でもダイヤモンド・ダストの皆と会うけれど…。誰も私のことをガゼル様とは呼ばないな。」


と返してきた。…予想してなかった訳じゃない。ミーティングルームの白く無機質な天井を見上げて、吐き捨てる。


「…そうか。…それでも俺らはネオ・ジェネシス計画を遂行するまでだ。」


ぱちぱちと長い睫毛を揺らしたガゼルは、やはりじっくりと俺を凝視した。


「ふぅん、案外冷静なんだね。…流石カオスのキャプテン。」


「ハッ、あんたに言われてもな。」


「そうかい?さて、そろそろ時間だ。私は元の時間軸に戻るよ。」


さっとガゼルが立ち上がった。


「唐突だな、何から何まで。」


片眉を上げながら見上げると、ガゼルは肩をすくめた。


「それはこの移動装置を作った、ヒロトに言って欲しいね。」


「ヒロト…?」


「今の君の最大の敵だね。あ、最後に一つだけ。」


ふふん、と鼻を鳴らしてガゼルは、爆弾を投下しやがった。







「君は、いつまでも私が隣に居ると思ってる?」


「は…?」


息が止まる感覚がした。







「残念だけれど、私は今、幸せな家庭を持っているよ。」


「晴矢とは、たまにお酒を呑んだりするくらい。」


「恋仲だったのは…エイリア学園まで、かな。」


「いまではいい友達だよ。」



頭がガゼルの言う言葉を理解することを拒んでいる。何か叫びたくて堪らないのに声が出なかった。



「ねぇ、晴矢。私たまに分からなくなるんだ。私の選択が合っていたのか、間違っていたのか。」


「私は彼女を愛してる。けど、晴矢の隣も幸せだったのかなって思うんだ。もうそこに立つことはないけれど。」


「だから晴矢。私が君の隣に居るように、」







未来を変えてくれ、バーン。













バーンとカオスの会議をしていると、私は煙に包まれた。


訳がわからず呆然としていると視界が戻り、目の前に、






大人になったバーンが居た。







輪郭や頭身や服装は違えど、炎を模した髪型も、金の瞳も、何もかもがバーンであることを示していた。


バーンは私を見ながらケラケラと笑っている。バーンと言うより、晴矢に近い笑みだ。


「久しぶり、ガゼル。」


大きなバーンはそう話し掛けてきた。久しぶり、と言われても彼と私は初対面になるはずだ。


「君…バーンなの?」


「おう。…いや、もうバーンじゃねぇな。俺は晴矢。南雲晴矢だ。」


そう言えば、黒線のフェイスペイントがなくなっている。


釈然としないままバーンを眺めていると、バーンはここが10年後の世界であること、エイリア学園がなくなったことをべらべら話し始めた。



納得できるようなできないような、曖昧な説明だったが、ここは信じて置かなくては話にならない。そうか、と相槌を打っておいた。


「お、信じてくれんの?」


「君は信じて欲しくないのか。」


「違ぇよ。ただ、ガゼルがこんなに素直だったとは思わなかっただけ。」


にししっと笑う彼に深く溜め息を吐いて、


「信じているよ、だって君はカオスのキャプテンだもの。」


そう言ってやると、バーンはそうか、と恥ずかしそうに笑っていた。


「しかし…10年後に飛ばされた私の前に君が居るというのは…」


「10年後も恋人だってことだ。」





その発言は、大きな衝撃を私に与えた。




今の私とバーンは確かに、恋人、という括りの中に入るだろう。

でもそれは、きっとこの閉鎖空間であるエイリア学園が無くなったら終わる関係だろうと思っていた。


ただの人間に戻れば、バーンの周りには幾多の女性が群がるだろうし、世間に戻れば、私達の関係は認められたものでもない。同性愛は、まだまだ容認されていない。


私は、エイリア学園崩壊後の将来はバーンの隣には女性が来るだろうと思っていた。


それでいい。諦めよう、と思っていたのだ。きっとその方が彼も幸せになれるだろう、と。

好きという感情を抱えて一人で生きる覚悟をひっそりと決めていたのに。





「風介から聞いたけどさ、今のお前、くだらない事考えてるんだろ。」


「く…くだらないだと?」


「くだらないだろ。馬鹿げてるぜ、俺がお前を捨てるなんて有り得ないだろ。」


いつの間にか、バーンの瞳からおどけた様子が消えている。

真剣な瞳に私は息を詰めた。


「…ッ…そんな事、分からないだろう…!」


「お前は本当難しい奴だよな。好きだって言っても、愛してるって言っても、行動で示しても、信じやしねぇ。」


「…難しい奴は、付き合い難いだろう。君は社交的じゃないか。何故私に構う。何故、」




私を選んだ?





私は床を眺めた。地べたにぺたりと座っていたから、床が近い。


屈んでいるバーンは、ハァーと溜め息を吐いた。

その音にびくり、と肩を揺らしてしまった。


呆れられたか…。



ぼんやりと思考が停止しかけていると、バーンはぽん、と私の頭に手を置いて、


「だから俺は年月を示してやったんだ。何年経っても俺は風介の隣に居るんだってことを。」


「…年月…。」


「風介はやっと俺の気持ちを認めたらしい。…お前は自分に自信が無さすぎ。その癖、プライドで色々固めすぎ。害虫駆除がどんだけ大変だったか…。」


「害虫?」


「あ、いや…お前は知らなくていいぜ?なぁガゼル、お前俺に何故?って聞いただろ?それを10年前の俺にぶつけてみろよ。全身全霊を込めて、答えるから。」




あ、と思うと、私の体は薄く光っていた。


「お、そろそろ帰れるぞ、10年前に。ああそれから、10年後のお前が10年前の俺に大法螺吹いてるから気を付けろよー。多分大荒れだから、俺。」


「え?…どういう意味だ!?」


「風介が言うには積年の恨み!らしいぜ?俺ばっかり上だから不貞腐れてんだよ。10年前の俺には俺と会わなかったって言っとけよー!その方が面白いから。」


「理解できない…。」


「後でわかるって。…俺の気持ちは揺らがないから、信じてくれ。そしてお前は、自信を持てよ、愛されている自信を!じゃあな!」





ふと目を開けると、目の前にバーンがいた。私の時代の、バーンが。…俯いているが。


「帰って来れたのか…。」


ふぅーと溜め息を吐いた。我ながら凄い経験をしたものだ。


「ガゼル…。」


「…バーン?」


俯いていた顔を上げて、バーンは私を抱き締めた。

突然の抱擁には無論驚いたが、それよりも、直前に見えたバーンの表情に、動きを止めてしまった。

なんだ、その顔は!その瞳は!一体何に怒っている?
どうして、君の瞳は陰っているの?

怒りに震えるバーン。彼は大抵、本気では怒らない。そんなバーンの全身から、怒りが溢れている。

何に対してだ?まさか、未来のバーンが言っていた大法螺か?

一体どんな嘘を言えばバーンをここまで怒らせると言うのか!





「俺はお前のこと、絶対に離さないからな。」




深い決意が、静かな声音に表れていた。

彼はこの言葉通り、10年間、私を離さないのだ。


…そうか私は、随分と多くの彼からの愛情を無碍にしていたらしい。バーンはずっと、私だけを見ていたのに。

失うことを恐れて、逃げていたのは…私か。




「…本当に、離さない?」


バーンはゆっくりと抱擁を解いて、私の瞳を真っ直ぐに見た。


「本当に。」


「そう、なら…私は離れないよ。」


ちょっと微笑みながら言うと、バーンは目を見開いてから、また私をきつく抱きしめてきたので、


私も、そっと抱きしめ返した。





抱擁の後に、何故私を選んだのかを聞いて、延々と私の魅力とやらを語られて、私の顔から火が出そうになるのは、

まだちょっと先のおはなし。







111008


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