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朝の紅茶と同設定。
そして学パロです。














***
ざあざあと音を立てて降る雨に舌打ちする。

あーそうだ、今日から梅雨入りだった…。

例年よりも随分早い梅雨入りですね、と若い女子アナが言っていたのは今日の朝のことだ。

雨が降り出したのは部活が終わってからだった。部活出来てラッキー!と思ったのは最初だけ、傘を忘れたのに気付くまでだ。


昇降口から外を見ても、辺りは暗く、豪雨の所為で数メートル先はぼやけている。

どうすっかなぁ…

走って帰るには、雨が強すぎる。エナメルに入れた教科書でも、ずぶ濡れになってしまうだろう。濡れた紙は、乾いた後の扱いが面倒だ。



携帯で天気予報を見てみるが、雨マークが並んでいるだけで、止む気配はないらしい。溜息を吐いて、頭を掻く。

しょうがねぇ、走るか…!

うしっ、と気合いを入れて走りだそうとした時に、


「晴矢。」


がちゃんと下駄箱から靴を取り出した風介が声をかけてきた。


「お、風介…?お前今日委員会じゃなかったか?」


「うん、図書委員会だったよ。…本読んでて、気付いたらこんな時間だった。」


「おいおい…危ねぇだろ…!もう誰も残ってねぇぞ…!」


いつもの活気が嘘のように、静まり返った学校で小さく吠える。

とっくのとうに下校時刻は過ぎた。サッカー部のみ、例外的に下校時刻後の活動が黙認されているが、今からの下校は正直危ない。


「…私は女子か…。大丈夫だろう、この時間なら。」


風介は人気の無い図書室で、本を読むのが好きなのだ。部活のある放課後でも、委員会の日は本を読むのに当ててしまっている


「俺が嫌だっつの…。」


「晴矢は心配しすぎだよ。…雨、強いね。」


風介は外をぼんやりと眺めた後、クラスごとになっている傘立ての方へ歩き、一本の青い傘を抜き取った。


「流石、風介は傘忘れたりしねぇんだな。」


「君、朝に天気予報見てたじゃないか!何で忘れるの…。」


「持ってきたつもりで忘れてたんだよ。」


両手をひらひらと振ると、呆れたように風介は溜息を吐く。


「自己管理がなってないね。」


「…風介と登校してたら忘れなかったのに…。」


ぶつぶつと呟いても風介は表情を変えずに、


「はいはい、日直お疲れ様。」


とだけ言った。


今日の俺は日直で、早く登校しなければならなかった。いつもは一緒に登校する風介は、そんなに早くに学校に行きたくない、と言って俺との登校を拒否した。


「起きてたんだから、一緒に登校しよーぜ…。」


「嫌だよ。」


「そんなはっきり拒否すんなよ…。俺のガラスハートが砕けるぞ。」


「強化ガラスだから大丈夫でしょ。…帰ろう。」


風介はパサリと傘を開いて振り向く。これは相合傘で帰れるってことだ。
風介に寄り添うように近づくと、風介も少しだけ俺の方に体を寄せた。

ぴったりくっついて歩きだそうとする風介から傘を抜き取って、


「傘は俺が持つから。」


と言うと、風介は慌てた様子で言う。


「え、いいよ大丈夫。私が持つから。」


それに少し笑って、


「いいって。折角こんな時間まで残ってくれた風介さんに傘を待たせられませんよーっだ。」


案の定、ピタリと傘を取り返そうとしていた風介の手が止まった。


長い沈黙の後、


「…そんな事はしてないよ。」


と目を逸らしながら風介は呟いたが…頬が赤いって。


多分、俺の赤い傘は玄関に立て掛けてあったはずだ。持ってきたつもりで忘れてた。…準備はしたけど、持っていくのを忘れたのだ。

風介はそれを見て、俺が傘を忘れたことに気付いたに違いない。



風介は確かに、本を読み出したら周りの世界が見えなくなるタイプだ。けどそれは、信頼してる奴が近くにいるのが条件。自分一人の時は周りの状況に合わせるくらいの器用さは持ち合わせている。

いつもの風介なら、雨が降り出す前にさっさと帰ってる。

もし、雨に気付かずに読み続けていたとしても、下校時刻を過ぎるなんて失態を風介がするはずが無い。



にやにやと笑う俺にさっきの溜息に諦めを足したみたいな息を吐いて、


「風邪引かれると、面倒だからね…。」


と風介はぼそぼそ言う。耳まで赤いその顔で言われても、可愛いだけだぜ、風介。




今日の洗濯は晴矢がやってね、とさり気なく風介担当の家事を押し付けられたが、まぁ今日の風介の可愛さに免じてやってやろうじゃないか。








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